日本人初の女優賞受賞も結果は“保守的”? 大作不在の第79回カンヌ国際映画祭を振り返る
一方で、次点であるグランプリに輝いたアンドレイ・ズビャギンツェフの『Minotaur(英題)』と、監督賞タイ受賞のパヴェウ・パヴリコフスキの『Fatherland(原題)』、男優賞ダブル受賞のルーカス・ドン監督の『Coward(原題)』はMUBIが北米配給権を獲得している。NEONかMUBIか、作品の多様性は増す代わりに配給会社の多様性は乏しくなりつつあるようだ。ここで挙げた3本の監督名を見てすぐにピンと来る人もいると思うが、パルムドールのムンジウを含め、今年の受賞結果はカンヌ受賞経験者の作品が中心に構成されている。
ズビャギンツェフはムンジウがパルムドールを獲った年に『ヴェラの祈り』で初コンペながら男優賞をもたらし、続く『エレナの惑い』がある視点部門の特別審査員賞。コンペに戻ってきた『裁かれるは善人のみ』で脚本賞に輝き、『ラブレス』が審査員賞。そして今回グランプリと、百発百中で順調に階段を登ってきている。パヴリコフスキは『COLD WAR あの歌、2つの心』で監督賞に輝き、そのまま同年のアカデミー賞監督賞候補にも挙がっていた。そしてドンは前作『CLOSE/クロース』がグランプリ受賞作。こう考えると、かなり保守的な結果といえよう。
日本から出品され、見事に主演女優2人が女優賞を獲得した濱口の『急に具合が悪くなる』。いわずもがな濱口も『ドライブ・マイ・カー』で第74回脚本賞を獲得しているカンヌ受賞経験監督である。岡本多緒の受賞は、カンヌでは初の日本人女優の戴冠となる。三大映画祭全体で見ても、左幸子と田中絹代、寺島しのぶ、黒木華(いずれもベルリン)に続く史上5人目の快挙。先述の通り、同作の北米配給はNEONが務めるので、今回も賞レースをにぎわす可能性は充分に考えられるだろう。
同じくコンペに日本から参加した是枝の『箱の中の羊』と深田晃司の『ナギダイアリー』は無冠。映画祭の開催期間中に各国のメディアが公開する批評家陣の星取表を見る限り、あまり評価が伸びていなかった印象だ。他の部門にも目を向けてみると、カンヌ・プレミア部門で黒沢清の『黒牢城』が上映され、ある視点部門には岨手由貴子の『すべて真夜中の恋人たち』、ギリシャと日本などの合作であるコンスタンティナ・コヅァマーニの『タイタニック・オーシャン』の2本が選出。
また、併行部門である「監督週間」には門脇康平の『我々は宇宙人』と矢野ほなみの『エリ』の2本のアニメーションが選出され、学生映画を対象としたラ・シネフ部門には日大芸術学部の黄周行が手掛けた『まだ雨降るかな』が選出されていた。目立った受賞結果がないと埋もれてしまう傾向にあるためこうして羅列したが、新たな才能との出会いも映画祭では忘れてはならないことだ。
この13年間でカンヌのコンペに選出された日本人監督は今回の3人(深田は初コンペとなったが、過去に「ある視点」部門受賞経験がある)のほか、河瀬直美と昨年の早川千絵のみ。キャリアを考えれば深田や早川はまだまだ“新たな才能”と呼べるところだが、そろそろ新顔が現れてもいい頃合いである。