『風、薫る』が問う女性を縛る“若さと美”の描き方 遊び心を織り交ぜる制作陣の余裕も

りんのこの行為は、直美の「嘘」とは違うものの、間接的に目的を叶えるという点においては同じである。りんと直美を見ていると、どうやら看護婦は主体になるのではなく、患者の考えを主体にして、それを実現させるために工夫を凝らすことのようだ。とりわけ、りんの看護は究極の裏方だ。

直美の場合は自分のかわいさや若さを利用しているので、若干、彼女が主体になっている。ここで興味深いことがある。千佳子にとって彼女の若さや美がアイデンティティになっていた。それが年をとって「お母さん」「おばさん」になっていくことにものわかりよくあろうとするも、やっぱり抗ってしまう。気持ちはいつまでも変わらないのだということを切々と語らせていることと、直美が若さと美を武器にして暗躍していることを重ねて描いていることだ。令和のいまではジェンダーやルッキズムに配慮すると、若さや美に言及しづらい。ちょっと前までは当たり前のようにドラマで描かれていたことを、かすかに通奏低音として描きつつ、そこを決して前面には出さない。それは作り手としてのアップデートであると同時に、女性が若さと美に縛られてきたこと(主に男性からそう見られるがために縛られてきたこと)からのアップデートでもある。女性の双六のコマの内容や上がりが時代によって変わっていくように、ドラマの女性の考え方も変わっていく。
主軸以外の描写も第8週は好調だった。他のドラマとのリンクを感じさせるところがいくつかあり、徐々に余裕ができてきたような印象も受ける。千佳子が病室で読んでいたのは『源氏物語』で、見上愛が『源氏物語』を題材にした大河ドラマ『光る君へ』に出演していたことと重なる。そこで紫式部を演じた吉高由里子が、NHK連続テレビ小説『花子とアン』ではヒロインで、仲間由紀恵は親友役だったという複雑なリンクが成されていて、SNSは盛り上がった。

また、元彦が差し入れる千佳子の好物・カステラは、仲間が出演した『大奥』では毒入りのおそろしいものだった。今回、まさか、元彦はやさしく見えて実は妻に毒入りカステラを? というミスリードを誘うものにもなった。千佳子の息子の名が行彦(ゆきひこ)で、仲間の出世作『トリック』の堤幸彦(ゆきひこ)監督(現在『ミステリー・アリーナ』公開中)を筆者は思い浮かべ、仲間が「ゆきひこ」と呼び捨てるなんて感慨無量だと思ってしまった。
いずれも内輪ネタではあるが、ちょっとした小ネタが入ることでドラマが活性化する。この調子で、本筋と遊びをうまく混ぜ合わせていってほしい。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK





















