松山ケンイチはなぜプロフェッショナルが似合うのか? 『時すでにおスシ!?』はまさに真骨頂

松山ケンイチはなぜ“職人役”が似合う?

 俳優・松山ケンイチが画面に現れるたび、ふと考えてしまう。彼の「本当の姿」は、一体どこにあるのだろう、と。

 松山が演じる作品の中に存在するのは、毎回その作品の世界にだけ存在する「誰か」だ。松山は演じるにあたり、見た目から役作りに挑むこともある。『聖の青春』では天才棋士・村山聖を生きるために20kg以上増量し、『DEATH NOTE デスノート』ではLという人気キャラクターに寄り添うため、表情の癖から姿勢、メイクに至るまで徹底して作り込んだ。

 だが、外見が大きく変わる役だけではない。顔立ちも体つきもほとんど変わらないはずの作品同士でさえ、「似ている」と感じたキャラクターは誰一人としていないから不思議だ。

 かつて『あさイチ』(NHK総合)でゲストに登場した松山が自分に対する悪口として「存在がポン酢」と回答したことがある。松山いわく、ポン酢は醤油やほかの調味料ほど癖や濃さがなく、どんな料理にも馴染む「万能選手」だから、という理由らしい。

 役ごとに姿を変える俳優を「カメレオン俳優」と呼ぶのはよく聞くが「ポン酢俳優」という言葉を想像した瞬間、松山のふわっとした存在感と妙にしっくり重なってしまい、つい笑ってしまった。でも、役にあわせてどんな色にも染まる力こそが、彼の特異な魅力なのだろう。

 松山は、これまで弁護士や職人、裁判官など多様な役を演じてきたが、どの役にも、まるでその道を何十年も歩んできたかのようなリアリティが滲んでいる。『クジャクのダンス、誰が見た?』(TBS系)で演じた弁護士・松風義輝もそうだった。記者の執拗な追及や予期せぬトラブルに見舞われても、彼は微塵も揺るがない。あの静かな佇まいと冷静な振る舞いは、知識と経験に裏打ちされたプロの姿そのものだった。また、『テミスの不確かな法廷』(NHK総合)の風変わりな裁判官・安堂清春役での名演も記憶に新しい。なぜ、彼はこれほどまでに「プロフェッショナル」な役を、違和感なく演じ切れるのか。

 4月から放送が始まったドラマ『時すでにおスシ!?』(TBS系)でも、松山は鮨職人でありアカデミー講師の大江戸海弥を、リアリティあふれる演技で見事に体現している。大江戸は初登場の瞬間から、スーパーの魚を前に眉をわずかに寄せ、じっと見据えていた。その姿は、みなと(永作博美)からこっそり「魚組長」と呼ばれるほどの強面ぶりだ。

 しかし、大江戸が鏡に映った自分の険しい表情を見て「あっ」と驚く瞬間、私たちは気づかされる。彼は決して、誰かを威嚇しようとしているのではない。ただひたすらに、鮨職人として目の前にある「魚」を本気で吟味しているだけなのだ、と。

 大江戸は鮨を握るだけでなく、「鮨アカデミー」で生徒たちの指導も行っている。指導の場面では、「挨拶は板前として立つための出発点。それができない者は、そもそも出発点に立つ資格がない」と、容赦のない口調で言い放つ。

 その言葉は厳しいけれども、説得力があり、気づけば耳を傾けていた自分がいたことに、ふと気づく。松山自身が、舞台で培ってきた経験ゆえだろうか。声には張りがあり、緩急のつけ方も巧みで、説明のシーンには自然と説得力が生まれていた。

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