『ONE PIECE』は日本の漫画原作実写化におけるトップランナーに 今後控える巨大な“壁”も

実写版『ONE PIECE』の核にある“侠客”精神

 さらに物語は、雪に覆われた国の政治的な問題にも広がっていく。『ONE PIECE』のエピソードにおける一つの定型である、圧政と被支配者の蜂起の構図が、ここでは分かりやすく提示される。なかでも医師・Dr.ヒルルク(マーク・ハレリック)とチョッパーとの交流は、典型的な人情物語だからこそ、最近では見られないような、ストレートに涙を誘おうとする人間ドラマを味わうことができる。この箇所は、第1シーズンも含めた本シリーズでの白眉といえるだろう。

 ここでヒルルクから発せられる「この国は病んでいる」という言葉は、国家というシステムの機能不全を、人体の健康状態で表現するという、医師らしい社会批判となっている。17世紀イギリスの思想家トマス・ホッブズはかつて、秩序を守る絶対的な権力体を巨大な人工的人間「リヴァイアサン」になぞらえた。ホッブズは強いリーダーが“頭”となり、自由を一部縛ることで、国民を統制することが正しい道だと主張したのだ。

 しかし本作において独裁者ワポル(ロブ・コレッティ)が提示したのは、医療技術の独占による強権的な秩序の維持。そんな暴政によってワポルが地位を追われることになる構図は、“国家”が自らの肉体が病魔に蝕まれても、何も治療しないのと同じことではないのか。それでは国自体がやがて維持できなくなってしまう。

 この政治風刺は、国のトップが利己主義者だったら、秩序も何もあったものではないということを示すという意味で、「リヴァイアサン」の弱点を潜在的に指摘しているといえる。これは、たとえば日本の政治家が国民の医療負担を増やそうと呼びかけるような構図にも重ねられる。

 そんな社会を変えようと、命をかけて動き出すヒルルクの高潔な魂は、ルフィの義理人情を尊ぶ、善なる海賊としての“侠客”精神にも接続される。ルフィがヒルルクの遺した旗を、身を挺して守ろうとする行為は、異なる立場からの“魂の感応”といえる。この精神的継承が、やはりヒルルクの意志を継ごうとするチョッパーの心を開くことになるのだ。

 多くの人々は、成長して社会に順応していく過程で、立場に構わず社会の矛盾にぶつかろうとする、ヒルルクのような一種の“狂気”を捨て去ることを強要される。だがルフィはここで、その狂気すらも“仲間の夢”として引き受け、譲れない信念を通そうとする。それは、ルフィ自身が“迎合”という意味での成長を拒んでいるキャラクターだからだろう。

 現地の文化は尊重するが、それがもし邪悪なものであり、人々を傷つける利己的なものであるならば、ゴムゴムの能力でぶっ飛ばそうとする。そんなルフィだからこそ、そこに共鳴する純粋な仲間たちが集まってくるのだ。こうした“侠客”精神が、本シリーズのカタルシスの核にあるものだろう。

 とはいえ、このドラマシリーズが成功すればするほど、避けて通れない巨大な“壁”も姿を見せるはずだ。現在、尾田栄一郎による原作は1100話を超え、物語はいよいよ最終章へと突入しているようだが、ドラマの方は、シーズン2を終えた段階で、全体からするとまだまだ序盤も序盤である。製作陣は、理想として12シーズンを目指していると語っているが(※)、このペースでそれを完遂するのは困難かもしれない。

 キャストたちの肉体的な加齢、製作費の維持など、条件面を考えても、物理的な制約が少なくない。とはいえ、好評が続くうちは、いろいろとやりようがあるものだ。特定のエピソードを映画版というかたちで切り出したり、ストーリーを圧縮するなど、可能性はさまざまに存在する。本シリーズ『ONE PIECE』は、日本の漫画原作実写化におけるトップランナーの一つとして、今後たどる道のりもまた、注目されることになるだろう。

参照
※ https://deadline.com/2023/09/one-piece-producers-manga-luffy-interview-1235544012/

■配信情報
Netflixシリーズ『ONE PIECE』シーズン1〜2
独占配信中
出演:イニャキ・ゴドイ(モンキー・D・ルフィ役)、新田真剣佑(ロロノア・ゾロ役)、エミリー・ラッド(ナミ役)、ジェイコブ・ロメロ(ウソップ役)、タズ・スカイラー(サンジ役)、イリア・アイソレリス・ポーリーノ(アルビダ役)、ジェフ・ウォード(バギー役)、マイケル・ドーマン(ゴールド・ロジャー役)、チャリスラ・チャンドラン(ミス・ウェンズデー役)、ダニエル・ラスカー(Mr.9役)、キャムラス・ジョンソン(Mr.5役)、ジャザラ・ジャスリン(ミス・バレンタイン役)、デヴィッド・ダストマルチャン(Mr.3役)、ソフィア・アン・カルーソ(ミス・ゴールデンウィーク役)、レラ・アボヴァ(ミス・オールサンデー役)
シーズン3共同ショーランナー・脚本家・製作総指揮: ジョー・トレイス、イアン・ストークス
シーズン2共同ショーランナー・脚本家・製作総指揮: マット・オーウェンズ、ジョー・トレイス
エグゼクティブ・プロデューサー:尾田栄一郎(原作者)、マーティ・アデルスタイン、ベッキー・クレメンツ(トゥモロー・スタジオ)、藤村哲哉、クリス・シムズ、スティーヴン・マエダ
製作:トゥモロースタジオ、Netflix
©尾田栄一郎/集英社

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