令和アニメで注目される“男の娘” ブームの背景にあるキャラクター造形の変化を探る

脇役の意外性として置かれることが多かった「男の娘」

シュタインズ・ゲート放送直前PV

 性別を越境するキャラ自体は以前から存在したが、「男の娘」という言葉が広く流通していくのは2000年代以降である。初期は脇役の意外性として置かれることが多く、たとえば『STEINS;GATE』の漆原るかや、『バカとテストと召喚獣』の木下秀吉のように、「見た目の印象」と「性別」のズレがキャラクターのフックとして機能していた。

 そこから近年は、物語の中心に据えられたり、作品の顔になるキャラクターとして描かれたりするケースも増えている。2024年夏にはノイタミナ枠で『先輩はおとこのこ』が放送され、花岡まことが主人公として物語を牽引した。原作はLINEマンガで累計2億2000万ビューを超えたとされ、2025年2月には劇場版も公開されるなど、大きな広がりを見せている。

 ただ、ここで注目したいのは「目立つ作品が出てきた」という事実そのものよりも、「記号の使い方」が変化している点だ。かつての「男の娘」は、「実は男だった」と明かされるインパクトに重心を置く描かれ方が多かった。見た目とのズレで受け手を惹きつけ、その瞬間が面白さのピークになる。もちろん今も、他のキャラクターが「え、男なの!?」と反応する場面込みでインパクトを作る作品はあるし、そうした設計が機能する場面も多い。

『先輩はおとこのこ』が示した“主題化”

『映画 先輩はおとこのこ あめのち晴れ』©pom・JOYNET/LINE Digital Frontier・「先輩はおとこのこ」製作委員会

 一方で近年は、そこからさらに踏み込む例も出てきた。先ほど触れた『先輩はおとこのこ』の花岡まことは、その代表だろう。まことは可愛いものが好きで、学校ではセーラー服にロングヘアのウィッグで過ごしている。この作品では「男の娘であること」が一発の意外性では終わらない。そこを入口にして、本人の迷いだけでなく、家族や友人との関係まで掘り下げ、葛藤と成長を物語の中心に据えている。主役として、属性がストーリーの柱になる設計だ。

 同時に、冒頭で触れた綺羅羅や乃依のように、「男の娘であること」が主題ではないキャラクターもいる。彼らは、過度な説明をせずとも成立する“キャラづけの一要素”として置かれていた。アバターや配信文化の広がりによって「見た目」と「声」や「中身」の組み合わせが一致しない(させない)ことが日常の感覚として珍しくなくなったことも、「男の娘」という属性の置きやすさを後押ししているのだろう。

 つまり「男の娘」属性は、物語を動かす主役の柱にもなれるし、サブキャラのフックとして輪郭を立てる役割にも使える。特定のジャンルに縛られず、役割のレンジが広がっている点が、いまの変化だと言っていい。この“属性の汎用化”とも言える歩みは、「ツンデレ」属性と少し重なるところがあるように思う。

「ツンデレ」に近い汎用性が生まれつつある?

『映画 先輩はおとこのこ あめのち晴れ』©pom・JOYNET/LINE Digital Frontier・「先輩はおとこのこ」製作委員会

 かつてラブコメのヒロイン(メイン、サブを問わず)のお約束として機能していたツンデレ属性は、いまやバトルでもSFでも日常系でも、キャラクターに掛け合わせる一要素として定着している。ポイントは、その属性がキャラクターの全体を支配しないことだ。必要な場面で効かせつつ、物語の主軸は別の要素に譲れる。だからこそ、ジャンルを越えて馴染みやすいのだろう。

 たとえば同じギャップ系でも、ヤンデレは性質が少し違う。執着や独占欲が行動原理になりやすく、そこを薄めると成立しにくい一方、前に出すと物語の重心が一気に引き寄せられる。コメディや青春群像劇に混ぜ込むことも不可能ではないが、相手キャラとの関係性を深く掘り、感情の振れ幅を丁寧に扱う前提が生まれるぶん、使いどころは選ぶ属性だ。

 その点、「男の娘」にはツンデレに近い汎用性が生まれつつある。「男の娘×バトルアクション」「男の娘×青春」といった掛け算が成立しやすいのは、それ自体がキャラクターの本質を占有しないからだ。前に出しても、引っ込めてもよい。主題にも装飾にもなれるレイヤーとして運用できる可変性こそが、近年の置かれ方の広がりにつながっているのかもしれない。

 表現と受容の両面で選択肢が広がっていく流れが重なる限り、“男の娘”は作品ジャンルを問わず、さまざまなかたちで登場し続けるのではないだろうか。

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