『ばけばけ』の“炎上描写”は他人事ではない 「マツエ、ジゴク」の真意を考える

ヘブンが「マツエ、スバラシ。」と感じたのは、トキやヘブンがこれまで関わってきた人たちが彼らから離れることなく、心配して集ったことだった。それはそれですてきなことだけれど、極めて閉鎖的な感じはしてしまう。だが、リアルに考えたら、明治の時代、トキとヘブンが国際結婚したことは、なかなか人々に受け入れられなかったのかもしれない。一部の理解者とだけひっそりと親しく生活していたのかもしれない。そもそも、川のあっちとこっちで差別が厳然としてあるのだから。川の向こうから越してきて武家屋敷で贅沢暮らしをしている一家は城下町で生きる人たちからはちょっと斜めに見られていたのかもしれない。昆布をステーキになると言っておまけしてくれた人のように。貧しい地域の人たちはそもそも遊郭という人間の売買が日常茶飯事なのだから、洋妾だろうが身請けだろうが差別なんかしないのでないかと想像する。生き抜くためにはなんだってやる人たちだろう(これはいい意味で書いています)。
城下町の人たちにとっては異人と暮らす松野家は見せ物のようなもので、心から敬意や親しみを持つ人は多くなかっただろう。ヘブンはとりわけいじられていることに孤独を感じたのではないだろうか。外国人差別の経験のある人だから。

ヘブンが松江の冬が寒いから熊本に行こうと言い出すことにも、冬が寒いからだけではないものを感じるのだ。「マツエ、サムイ、マツエ、ジゴク」。これは、松江という場所というよりは、容易に変わってしまう人間たちの心を言っているのではないだろうか。ちょうど、フミ(池脇千鶴)が語った怪談が、なんの罪もない娘を築城のために人柱にしたという集団の恐ろしさを描いたものだった。ヘブンにはその娘とトキが重なったのだろう。トキもそれまでは自分が受けた恐怖や悲しみをうまく整理できなかったけれど、物語として客観視することで素直に泣けた。おそらくフミはわかったうえであえてこの怪談を選んだのであろう。
ちょうど本も出て外国での売れ行きは好調、新刊も書けそうとあれば、新天地に出向くのもいい。ヘブンは、心の寒さを癒やすためにここから離れようと考えたのではないか。トキとヘブンに安住の場所が見つかりますように。
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK






















