『ばけばけ』はなぜ3人の女性の貧困を描いたのか 寛容さと多様性に満ちた現代性

『ばけばけ』はなぜ女性の貧困を描いたのか

 さとうほなみの芝居とは、絶望よりも希望が似合うということだろう。どんなにしんどくても明るくからっと生きてきたなみ。そもそも、期待していたヘブンに農家の娘だからと女中になることを断られたことも相当なダメージであったはず。代わりにトキが女中で高給取りになってもネガティブな感情を一切抱いていないようだった。

 このままトキが裕福な奥様の座に収まりなみは貧乏なままだと、トキのせいではないが間接的になみの人生の可能性を奪ったという見方もできかねない。そう思うと、ここはなみには幸せになってもらわなければならないだろう。ヘブンに選ばれた者(トキ)も選ばれなかった者(なみ)も幸せになる。それで良い気がする。

 一方で、ジェンダー平等が謳われる時代、経済的に男性に依存する女性をふたりも描くのは、明治時代が舞台であるといっても釈然としないという見方もあるだろう。だが、現代の女性にも専業主婦になりたいと思う人だっている。それもセレブな専業主婦に。不況の世の中で、経済的な安定を望むなら、苦労して薄給のまま働くより、専業主婦で優雅な生活ができればそれでいいという考え方もあっていい。トキとなみはそういう層の気持ちにフィットする。

 ただ、それでは女性の地位の向上という道筋が閉ざされてしまう。そうはいかない。女性は男性に頼らずとも生きていけるのだということを示さなくてはならない。そこでサワだ。サワは自力でこの橋を渡り、川の向こうに戻ろうとしている。しかも、第17週で判明したのは、体の弱い母の世話をしながら教師を目指して勉強に励んでいたことだ。そりゃあ大変だっただろうとお気の毒になった。

 トキ、サワ、なみの3人を見ると、外で働かなくても主婦業をちゃんとやることだって女性の地位を低くするわけではないだろうと感じる。現代では主婦業を時給換算するというような発想の転換も生まれているくらいだから。結婚した夫の経済力に頼るのは志が低いみたいな考え方も取っ払ったほうが人間は楽に生きることができるのではないだろうか。

 『ばけばけ』の描く女性像は、こういう人たちがいてもいいという寛容さと多様性に満ちている。ただ、ひとつ気になるのは、突然、サワの母が出てきたこと。トキとは長屋で暮らしているのに、ご近所同士の助け合いが勘右衛門(小日向文世)になついていた新作、久作の子どもたちとの関わり以外、描かれていなかった。長屋はいつもしんっとしていて、岡田惠和が得意とするご近所づきあいや、『らんまん』(2023年度前期)で描かれた長屋の人たちとの関係のようなものはなかった。

 ご近所づきあいの希薄さは極めて現代的であるが、昨今はみんなで助け合って生きていきましょうという時代でもあるから、松野家の人たちの周囲との関係性の希薄さはちょっと不思議な感じもした。武士の家の出というプライドから近所付き合いをしてこなかったとしても、サワの家とのあたたかな助け合いがもうちょっと描かれていたら。そんなふうに思うのは、サワ役の円井わんや、なみ役のさとうほなみの芝居のレベルが高く、役の存在感が大きく見えたからかもしれない。いくらでも掘り下げられる人物に育ったのだと思う。ちなみに、トキの向かいの船関係の商売をしているらしいお家の人なんかも出てきてほしかった。

参照
https://realsound.jp/movie/2026/01/post-2284710.html

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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