『ばけばけ』でトミー・バストウが体現する日本観 小泉八雲『知られぬ日本の面影』を解説

小泉八雲『知られぬ日本の面影』解説

 ヘブン先生の『日本滞在記』が完成して、ラフカディオ・ハーンであり後の小泉八雲の日本を記録していく仕事が、NHKの連続ドラマ『ばけばけ』でも本格的に始まった。トミー・バストウが演じる熱血漢でユーモラスなところもあるヘブン先生の姿からは、熱い言葉で日本を紹介した本のようにも思えるが、ハーンが実際に書いた『知られぬ日本の面影』は、平井呈一の翻訳もあって冷静かつ精緻に日本を見つめ日本人の内面にまで想像をめぐらせた本になっている。

出雲神話への憧れが導いた杵築(出雲大社)訪問

「私は『古事記』で出雲の神話を読んで以来、かねがね杵築を訪れてみたいと思っていた。その地を訪れた西洋人がほとんどまれで、しかもいまだ昇殿までした者はいない、という話を耳にしてからは、いっそうの思いに駆られた」

 『知られぬ日本の面影』を編纂し直したうちの1冊『新編 日本の面影』(角川ソフィア文庫)に収録されている「杵築―日本最古の神社」の一節だ。『ばけばけ』でも触れられたように杵築とは出雲大社のこと。『ばけばけ』では1月5日放送の第66話でヘブンが錦織友一(吉沢亮)と連れだって訪ねようとして、そこにトキ(髙石あかり)も呼んで「ズット、トナリ、イサセテクダサイ」とプロポーズする、重要なシーンの舞台となった場所だ。

 『ばけばけ』で西洋人として昇殿したのはヘブンが初めてと言われていたように、ハーンも出雲大社に詣でた初めての西洋人だった。錦織のモデルになったハーンの友人の西田千太郎が杵築の宮司に紹介状を書いて実現した。『ばけばけ』のヘブンと錦織の深く信頼し合った関係にも増して、ハーンと西田は繋がっていたと言える。『怪談』のような伝承の採録が、トキのモデルとなった妻の小泉セツの口述のおかげだったとするなら、ハーンの日本を見つめる視線の深さであり優しさには、西田の献身があったのかもしれない。

宍道湖の船上で見た「神々しいもの」

 「秋晴れの九月のある日、私は午後一番に、杵築に向けて松江を発った。乗り込んだ蒸気船は、エンジンから後甲板のてんまくまで、なにもかもが小人(リリパット)の国のように小さい」。続く記述でハーンが松江から出雲へと行く途中まで、宍道湖を船で移動したことが分かる。ハーンはその船上で見た光景を、「まさにこの大気の中に―幻のような青い湖水や霞に包まれた山並みに、燦々と降り注ぐ明るい陽光の中に、神々しいものが存在するように感じられる」と書いている。

 一神教の国から来て、「これが、神道の感覚というものなのであろうか」と言えてしまえるくらいに八百万の神々を思う日本人の感性に迫っていたのだから、ハーンの日本への傾倒振りはなかなかのものだ。到着した後も、宿屋で旅の疲れを癒やすどころか晩酌してから宿の主人の案内で、夜の大社を案内してもらった。「提灯のおぼろげな光に照らされた大社への産道は、私の胸をも打ち震えさせるほどの凄さだ」と記述された大社の荘厳さを、『ばけばけ』でも観てみたかった。

 それは、翌日に行われた出雲大社への参拝や、千家当主(82代出雲国造)の千家尊紀との面会にも言えることだ。現代の出雲大社に参拝しても、本殿の中の様子やそこで職務に就いている宮司たちの様子はうかがい知ることはできない。映像で記録できなかった当時の日本各地の風景や習俗を、その頃の日本人が持っていた感性も含めて記録してあるところに、ハーンの日本滞在記の価値はある。

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