『テミスの不確かな法廷』第3話とリンクする『ラストマイル』 裁判官の資質とは何か

時間を守る、忘れ物をしない、体調管理を整える、マルチタスクをこなすーー社会人になると、それらは当然のごとく求められる。できたからといって、さして褒められるわけでも評価に直結するわけでもない、当たり前のこと。
だが、本当に当たり前なのかと改めて考えさせられたのが『テミスの不確かな法廷』(NHK総合)第3話だ。安堂(松山ケンイチ)が社会人として、あるいは裁判官として“あるまじき”ミスをおかし、その資質を問われる。
八御見運送のドライバー・佐久間(清水伸)が、業務中の事故で通行人を巻き込んで死亡。佐久間は過去にも過重労働が原因で事故を起こし、労災認定されていたこと、タイヤ痕から事故直前に蛇行運転をしていた=意識消失の可能性があることから、娘の絵里(伊東蒼)は今回も過重労働を疑い、会社を相手に民事訴訟を起こした。安堂は門倉(遠藤憲一)、落合(恒松祐里)との合議体で、その審理にあたることになる。

夜遅くまで蚊の発生源を掃除していたせいで予定通りの時間に起きられず、証拠保全手続きの場に寝癖のまま現れた安堂。執行官・津村(市川実日子)は寝坊の原因に首を傾げるが、本人には重大な問題だった。
ASD(自閉スペクトラム症)の特性の一つに、五感で受け取った刺激に対して、通常よりも強く反応してしまう「感覚過敏」が挙げられる。感覚過敏を抱えている人にとって、夏は地獄。高い音を苦痛に感じやすいため、蚊の羽音に悩まされ、気温や湿度の変化にうまく適応できず、体調を崩しやすくなる。涼しい服装をすれば良いと思うかもしれないが、一度肌に馴染んだ衣類を手放すこともまた難しい。
そのため、普段は必死に“普通”を装って生きている安堂もこの季節はペースを乱されることが多く、以前にも増して周りから「変わり者」と思われるようになっていた。後輩の小野崎(鳴海唯)から「安堂裁判官は信頼できる」と聞いていた原告代理人・穂積(山本未來)も、その振る舞いを見て不審がっている様子だ。自身が弁護人を務めた過去二度の刑事裁判で、真摯に真実と向き合う安堂の姿を見てきた小野崎は安心していたが、穂積の心配が現実のものとなってしまう。

これまで政治家と病院の癒着、企業誘致失敗に伴う農地の荒廃、未成年による違法賭博など、私たちに身近な社会問題をストーリーに落とし込んできた本作。今回、扱われているのは物流業界の危機とドライバーの過重労働だ。2024年4月から時間外労働の上限規制が物流業界にも適用されたが、ドライバーの人手不足とEC市場の拡大による配送料の増加は加速している。津村役の市川実日子も出演した映画『ラストマイル』は物流業界を舞台に、需要と供給のバランスが崩れたことによって生じる歪みを描いていた。
ただでさえ、物流がスムーズに機能しなくなっている上に、売上減少とコスト高の板挟みでトラック運送会社が倒産するケースが増えている。そんな中で、八御見運送は人員の補充なしに以前と変わらない荷物を運び、業績を維持していた。つまり今なおドライバーに過重労働を強いた上で勤怠記録を改竄している可能性が高いが、証拠はない。さらに佐久間が私立大学に通う絵里の学費を稼ぐために副業を行っていたことが明らかになり、被告代理人の鳴子(安井順平)はたとえ睡眠不足による事故だったとしても、それは本人の自己責任と主張する。

この時点で原告側は圧倒的に不利な状況だったが、それを覆しかねない事実を八御見運送の元社員・富樫(森岡龍)が証言してくれることになった。だが、安堂の忘れ物によって、その情報が被告側に漏れてしまう。結果、富樫は証言を取りやめ、連絡も取れなくなってしまった。ADHD(注意欠如多動症)の特性で忘れ物が多い安堂。日頃は細心の注意を払っているが、その日は一度に多くのことに見舞われたせいでカバンをベンチに置き忘れてしまった。落合からは「ありえないミスです」と責められ、門倉からも呆れられてしまう。安堂は心の中で本当の自分のことを知ってもらおうとするが、2人にその声は届かない。




















