染谷将太、“歌麿”に通じる表現者の魂 初演出のオーディオドラマで得た役者としての新境地

染谷将太、“歌麿”に通じる表現者の魂

 俳優の染谷将太が脚本と演出を担当した特集オーディオドラマ『だまっていない』が、12月29日にNHKラジオ第1で放送される。

 本作は、主人公2人と異星人の時空を超えた戦いを描くタイムスリップSFドラマ。NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』で喜多川歌麿を演じた染谷が、かねてより親交のある音楽家・渡邊琢磨とタッグを組み、とことん”音”にこだわった意欲作だ。キャストには渡辺大知、菊地凛子、川瀬陽太、津田健次郎ら、染谷とゆかりのある俳優が名を連ねる。

 オーディオドラマは初演出・初脚本となる染谷にその難しさと、『べらぼう』の収録と同時進行で本作の制作を進めた多忙な1年を振り返ってもらった。

「地球の平和を願って書きました」

――この度、作り手としてオーディオドラマに挑戦することになった経緯を教えてください。

染谷将太(以下、染谷):今回音楽を担当してくださった渡邊琢磨さんとは旧知の仲で、以前から「音だけで物語を届けてみたい」という願望はお伝えしていたんです。それから月日が経ち、『べらぼう』の収録中に石村将太プロデューサーと「オーディオドラマならそれが実現できるかもしれない」という話になって。そういえば、自分もNHKのオーディオドラマに出たこともあったじゃないかと思い出して、企画を出させていただきました。

――そもそも「音だけで物語を届けてみたい」と思われたのは、なぜなのでしょうか?

染谷:前にショートフィルムを監督したときも、音の仕上げがすごく好きで。役者としても、自分がしゃべる声のトーンを耳で意識しながら演じるタイプなんです。そういう背景もあって、音だけの表現に挑戦したみたいという欲求に駆られたのと、聴く人にも“画”に縛られず自由に想像してもらえるという点に魅力を感じました。

――その上で今回、SFというジャンルを選ばれた理由は?

染谷:まず自分の中にテーマがあって、それを具現化していく過程で「地球の人類が外から攻撃を受ける」という構造に行き着きました。さらに、せっかく音だけなので想像がどんどん膨らむような内容にしたいと思いまして。パッと思いついたのが、宇宙人だったんです。宇宙人って、人によってイメージが違うじゃないですか。足音や鳴き声から、リスナーに自分なりの宇宙人像を想像してもらえたら面白いなと思ったんですよね。

――佐々木役の川瀬陽太さんが「このオーディオドラマは、ちょっとした今の時代の空気みたいなものがベースにある作品です」とコメントされていましたが、染谷さんはこの物語にどのような思いを込めたのでしょうか?

染谷:自分としては、世の中の少し混沌とした部分を切り取りつつ、地球の平和を願って書きました。ただ、そこに対して明確な答えを出すのではなく、一人ひとりに想像してもらいたくて。人が生きていく上で避けられない衝突や、平和が保たれない状況を、音だけで想像する行為は、意外と意義のある時間になるんじゃないかと考えています。

――タイトル「だまっていない」が意味するところを、少しだけお話いただけますか?

染谷:いろいろな意味があるんですが、一つはオーディオドラマという“音”だけで作る形式そのものにかけています。また劇中では宇宙人が“音”の概念を集めているという設定があり、宇宙人を倒すヒントも“音”にある。そして生き残った二人が未来に進んでいく物語なんですが、彼らは決して“だまらない”。今回、意図的にタイトルを最後に出しているんですが、それを聴いたときにリスナーの皆さんが何を感じるのかを、自分はすごく楽しみにしています。

オーディオドラマならではの演出の難しさ

――染谷さんは今回が初演出・初脚本とのことですが、これまでにお仕事以外で物語を作った経験はありますか?

染谷:高校生のときに同級生の仲野太賀と一緒に自主映画を作りまして。そこで初めてちゃんとしたシナリオというものを書いたと記憶しています。その後も何本か自主映画を作ったり、協賛を得てショートフィルムを監督したりする中で脚本を作ることはありましたけど、やっぱりオーディオドラマは勝手が全然違いますね。普通なら映像で説明がつくところもすべて音で表現しなくちゃいけない難しさはもちろん、シンプルに尺が決まっている作品に挑戦したことがなかったので、尺の中にストーリーを収めるのってこんなに大変なんだなと。でも制約があるからこそ、豊かになった部分もたくさんあって。執筆作業は一番苦しかったけど、そのぶんやりがいがありました。

――染谷さんがショートフィルムを監督した際はご自身も出演されていましたが、今回はどうして作る側に徹しようと思われたのでしょうか。

染谷:今回は音だけの世界なので、ずっと客観的に聴いていたかったんです。映像の場合は撮り終わってすぐモニターでチェックできるので、主観と客観を行き来しやすいんですが、オーディオドラマはスタジオという閉鎖的な空間で自分も芝居をしていると、どんどん主観が強くなっていきそうだなと思って。なので、今回はディレクター側のブースから聴くことに徹しました。あ、でも一瞬だけ自分も出演してます(笑)。

――出演者の皆さんは染谷さんのご希望でお声がけしたそうですね。それぞれキャスティングの意図をお聞かせください。

染谷:大知くんとはお互いに作品を作っている関係で、「いつか一緒に何かやれたらいいね」って以前から話をしていて。今回は役柄的にも力をお借りしたいと思って、お声がけしました。妻(菊地)には物づくりをするときはいつも一緒にやってもらっているので、今回もお願いしますって感じで。台本もちょっとだけ手伝ってもらっています。川瀬さんは僕が10代の頃からお世話になっている方です。佐々木という役は説明セリフが多いんですが、川瀬さんが持つ“いい抜け感”で言っていただけたら、誠実で素敵に聴こえそうだなと思いました。津田さんとは『べらぼう』で共演させていただいたんですが、台本を書いているときに、途中から勝手に津田さんの声が自分の頭の中で流れ出してしまって(笑)。出演を快諾いただいてからは、ほぼ当て書きで執筆を進めました。

――そんな皆さんのお芝居やお仕事ぶりは、監督の目線から見ていかがでしたか?

染谷:主演のお二人には、不安と強さが同居するイメージを持っていました。置かれた状況に不安を感じつつも、その不安を的確に受け止められる強さっていうんですかね。大知くんはそのイメージを踏まえて「こっちの方がいいんじゃないか」と提案してくれましたし、妻に関しては自分がやりたいことをよく理解してくれているので、こちらが何か言うと「こういうことだよね」って瞬時に意図を汲み取ってくれて心強かったです。川瀬さんは、一見弱々しくも、その中に信念の強さを表現してくださっています。津田さんは本当に何を喋っていただいても説得力があって。今回はそこに甘える形で自分が作品に閉じ込めたメッセージを津田さんのセリフで散りばめさせてもらって、見事に着地させてくださいました。

――映像作品とラジオではまた演出方法も全然違いますよね。

染谷:自分の頭の中にはなんとなく映像のカット割りがあるんですが、それを伝えるのがまずもって難しかったですね。言葉で説明するだけでは不十分だと思ったので、イメージ画像を作って「こういう雰囲気です」「今はこれぐらいの規模で攻撃を受けてます」というように共有した上で演出する必要がありました。あとは芝居の方向性も全然違いますね。映像作品と同じ感覚でセリフを喋ってしまうと、意外と情報が耳に入ってこなかったり、声の音量やトーン一つでニュアンスが顕著に変わるのがオーディオドラマならではだなと思いました。

――本作には宇宙人の足音や鳴き声など、誰も聞いたことがない音が多数登場しますが、どのような制作過程を経て生まれたのでしょうか?

染谷:まず足音に関しては、ト書きに「ピチャピチャという足音が聞こえてくる」とだけ書きました。そこから効果の方がどんな音を作ってくださるんだろうというワクワクも込めて、敢えてその一文に留めたんです。実際に上がってきた音を聞いたときは、感動的でしたね。ホウ砂と洗濯のりを混ぜたスライムのようなものをバケツの中で動かして、“ドシャドシャ”という音を作ってくださったんですが、あれで世界観がグッと豊かになったと思っています。宇宙人の鳴き声に関しては、音楽の琢磨さんに作ってもらって。自分が電話越しに伝えた鳴き声を、あまり生き物っぽくない、機械的な音に仕上げていただきました。個人的にもすごく好きな音ですし、あの独特さに想像力を掻き立てられるんですよね。

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