『イクサガミ』『今際の国』『イカゲーム』 デスゲーム作品に共通する“支配構造の変容”

『イクサガミ』などに共通する支配構造の変容

 しかし2025年の作品群は、この構造を一気に空洞化させる。『今際の国のアリス』シーズン3は、シーズン2で今際の国のゲームをすべてクリアして現実世界に戻ったアリス(山﨑賢人)とウサギ(土屋太鳳)が、結婚して平穏な日々を送る4年後から始まる。だが、死後の世界を研究するリュウジ(賀来賢人)という男と出会ったウサギが突然失踪し、彼女は自ら再び今際の国へと旅立ってしまう。 

『今際の国のアリス』©︎麻生羽呂・小学館/ROBOT

 アリスはウサギを取り戻すため、再び命懸けの“げぇむ”に挑むことになるが、ここで重要なのは、これまで謎のゲームマスターの存在感が強かった世界が、シーズン3では都市空間とカードシステムそのものが自律的に動き出す装置として描かれていることだ。ジョーカーを名乗る人物は最後に登場するものの、管理者の“顔”は物語から後景化し、今際の国という環境それ自体がプレイヤーを追い詰める。 

『イカゲーム』Netflixにて独占配信中

 『イカゲーム』シーズン3では、主人公ソン・ギフン(イ・ジョンジェ)が再び過酷なデスゲームに参加。身を挺してこのシステムを終わらせようとするものの、エンディングではアメリカ版イカゲームを示唆するリクルーターが登場。フロントマンやVIPといった“顔のある悪”は物語上重要でありつつ、シリーズ全体が最後に提示するのは、「誰かを倒してもゲームそのものは終わらない」という、システムの自律性と匿名性だ。 

 そして『イクサガミ』は、明治時代を舞台に、戦神と恐れられた侍・嵯峨愁二郎(岡田准一)が、蠱毒(こどく)と呼ばれるバトル・ロワイヤルに参加させられる物語。数百人規模の参加者が、システムに投入される駒として消費されていく。 

『イクサガミ』Netflixにて独占配信中

 確かにこのゲームの背後には、(ネタバレになるので具体的な言及は避けるが)具体的な“顔”が存在している。しかし、彼らは従来のデスゲームのように、個人的な愉悦や退屈しのぎのために残虐なゲームを運営しているわけではない。彼らの目的は、国家や資本の論理に根差したもの。支配者たち自身も、巨大システムの一部なのだ。蠱毒のルールは、彼らの個人的な意志を超越した「冷徹な選別装置」として機能している。 

 意志なき指令と責任の所在の不在、そしてシステムだけが作動するディストピア。おそらくそこには、近年の社会状況が深く影を落としている。ポスト・コロナ期のインフレと生活費高騰、そしてAI・アルゴリズムによる評価や選別が進むなかで、多くの人々は、自分の生活を左右する意思決定がどこで行われているのかを実感として掴めないまま、不透明な圧力を受け続けている。もはや、誰がゲームを動かしているのか分からないデスゲームは、フィクションのための極端な設定ではない。それは、現代人が無意識に抱いている不透明な不安の反映だ。 

 デスゲーム作品はいま、人格化された支配者がゲームを司る時代を超え、「誰が支配しているのか分からない世界でサバイヴする」という、新しい物語へと移行した。それは、エンタメの変化であると同時に、私たち自身が生きる社会のかたちが変わりつつあることの兆候でもある。

■配信情報
Netflixシリーズ『イクサガミ』
Netflixにて世界独占配信中
主演・プロデューサー・アクションプランナー:岡田准一
出演:藤﨑ゆみあ、清原果耶、東出昌大、染谷将太、早乙女太一、遠藤雄弥、岡崎体育、城 桧吏、淵上泰史、榎木孝明、酒向芳、松尾諭、矢柴俊博、黒田大輔、吉原光夫、一ノ瀬ワタル、笹野高史、松浦祐也、宇崎竜童、井浦新、田中哲司、中島歩、山田孝之、吉岡里帆、二宮和也、玉木宏、伊藤英明、濱田岳、阿部寛
原作:今村翔吾『イクサガミ』シリーズ(講談社文庫刊)
監督:藤井道人、山口健人、山本透
脚本:藤井道人、山口健人、八代理沙
音楽:大間々昴
撮影:今村圭佑、山田弘樹
照明:平林達弥、野田真基
プロダクションデザイナー:宮守由衣
衣装デザイン:宮本まさ江
キャラクタースーパーバイザー:橋本申二
VFX:横石淳
助監督:山本透、平林克理
エグゼクティブ・プロデューサー:高橋信一
プロデューサー:押田興将
制作プロダクション:オフィス・シロウズ
企画・製作:Netflix

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