『ばけばけ』『しあわせな結婚』『秒速5センチメートル』 岡部たかしが2025年も大活躍

『ばけばけ』『秒速』岡部たかし2025年の活躍

 2025年は、『ばけばけ』以外のフィルモグラフィーを見ても、まさに岡部たかしの年と言っていい。ドラマ『しあわせな結婚』(テレビ朝日系)では、松たか子と阿部サダヲが演じる夫婦の周囲にいる親族・鈴木考役で出演。家族の秘密や過去の出来事が絡み合う物語の中で、コミカルさと不穏さの両方を担うポジションを、さりげない芝居で支えていた。日曜劇場『キャスター』(TBS系)では、阿部寛らとともに報道番組の現場を舞台にした物語を支えるキャストの一人として、社会派ドラマ特有の重さを現実的な温度で引き受けている。

 映画の世界でもその存在感は際立っていた。実写版『秒速5センチメートル』では、松村北斗演じる主人公・貴樹の上司を演じ、繊細なラブストーリーの背景にある“働く大人の現実”を具体的な形で立ち上げた。会議室での何気ない言葉や、仕事の段取りを気にかける視線に、生活の重さや諦め、同時にささやかな優しさまでもが滲み出る。主役のドラマを邪魔しない距離感を保ちながら、作品世界に厚みを加えるのが実にうまい。

『秒速5センチメートル』©2025「秒速5センチメートル」製作委員会

 こうした役柄の積み重ねがあるからこそ、『ばけばけ』の司之介にも説得力が宿る。時代の変化に追いつけない父親というモチーフは、決して歴史劇だけの話ではない。働き方が大きく変わり、価値観が揺れ動くいまの社会で、自分の居場所を見失いかけている中高年は少なくない。安定したキャリアを歩んできたわけではなく、50代でようやく大きく注目されるようになった岡部たかしという俳優自身の歩みもまた、立ち尽くしながらも生き続ける現代の大人たちの姿と重なって見える。

 おそらく視聴者が司之介に惹かれるのは、彼が“理想の父親”ではないからだろう。完璧ではないし、判断を誤ることも多い。それでも娘の将来を思い、家族のことを考えて必死にもがき続ける。その背中に、うまく言葉にできない自分自身の不器用さを重ねてしまう。岡部の芝居は、その不器用さを笑いに変えながらも、決して笑い捨てにはしない。笑ったあとに、じんと胸の奥に残る何かがある。

 朝ドラでのブレイクを経て、プライム帯のドラマや映画、さらには声の仕事へとフィールドを広げていくであろう岡部たかし。2025年は、その広がりがいよいよ可視化された1年だった。これから彼がどんな作品で、どんな大人を演じていくのか。『ばけばけ』の司之介の行く末とともに、その歩みを追いかけていきたい。

参照
※ https://www.steranet.jp/articles/93613

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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