『ばけばけ』『しあわせな結婚』『秒速5センチメートル』 岡部たかしが2025年も大活躍

『ばけばけ』『秒速』岡部たかし2025年の活躍

 2025年の日本のドラマ・映画を振り返るとき、その名前を真っ先に思い出す俳優の一人がいる。岡部たかしだ。

 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』でヒロインの父・松野司之介を演じ、作品そのもののムードを決定づける存在となっている岡部は、同年の民放プライム帯ドラマや映画にも次々と出演し、どこにでもいるのに、誰とも似ていない、ある種の個性的な役者としてのポジションを確かなものにしていった。50歳での本格的なブレイクというキャリアのタイミングも含めて、その活躍は決して偶然ではない。ここまで丁寧に積み上げてきた役柄の一つひとつが、ようやく一本の線としてつながっただけのようにも見える。

『ばけばけ』(写真提供=NHK)

 松江藩の上級武士の家に生まれながら、明治という新しい時代にうまく適応できない司之介。髷をなかなか落とせず、家族を養うために一獲千金を夢見て高額なウサギに手を出してしまう。丑の刻参りで娘の将来を案じ、借金まみれになってもどこか憎めない。やっていることだけを抜き出せばかなり無茶なのに、画面の前の視聴者は思わず笑いながらも、「こういうお父さん、どこかで見たことがあるな」と感じてしまう。

 司之介がユニークなのは、いわゆる単なるダメ父として描かれていないところにある。武士としての誇りも、家族への愛情も本物だ。ただ、その真面目さゆえに時代とのギアがかみ合わず、空回りしてしまう。岡部は、この人物を決してコミカルにやりすぎない。あくまで本人は大真面目に、必死に生きている。その温度を守り抜くからこそ、視聴者の側にだけ、じわっとした可笑しさと切なさが立ち上がるのだろう。

 司之介は脚本家・ふじきみつ彦による当て書きで生まれたキャラクターだという(※)。10年以上ともに作品を作ってきた関係性だからこそ、岡部の声や間合い、人柄から生まれる真面目な滑稽さが細かく織り込まれている。何げない立ち姿や、少しだけ目を泳がせる表情。それだけで「この人は今、どうしようもなく不安なんだろうな」と伝わってくるのは、長年の下積みのなかで磨かれてきた技術と経験の賜物だ。

『ばけばけ』(写真提供=NHK)

 岡部は数々の映画・舞台での印象的な脇役をこなしながら、作品全体の温度を一段階上げる存在として、以前から映像ファンのあいだでは高く評価されてきた。とはいえ、NHK連続テレビ小説『虎に翼』に引き続き、朝ドラでヒロインの父親を演じることは、俳優人生のなかでも特別な転機になったはずだ。

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