『ひらやすみ』は観る“エッセイ”作に 『いつか、無重力の宙で』と作り上げた“夜ドラの型”

『ひらやすみ』は観る“エッセイ”作に

 NHK夜ドラ枠で放送されている『ひらやすみ』は、一戸建ての平屋で暮らすフリーターの青年と、いとこの女性の同居生活を描いた帯ドラマだ。

 主人公の生田ヒロト(岡山天音)は29歳のフリーター。人付き合いが上手なヒロトは、近所のおばあちゃん・和田はなえ(根岸季衣)とも仲が良く、夕飯をごちそうになる仲だったが、ある冬に彼女が亡くなり、はなえの暮らしていた平屋を譲り受ける。

 それから3カ月後。美大に通うため、いとこの小林なつみ(森七菜)が上京し、ヒロトと平屋で二人暮らしを始める。

 本作は、毎日を楽しそうに生きているヒロトと、美大に通いながら漫画家を目指すなつみの同居生活を描いている。日常生活の小さな積み重ねを淡々と見せていくゆったりとしたドラマだが、1話15分、週4話(月~木)という短い尺と世界観がマッチしているため心地良く、ずっとこの世界の空気に浸っていたくなる。

 前クールに夜ドラで放送された『いつか、無重力の宙で』は、15分の中に情報を凝縮することで、スケールの大きな物語を生み出すことに成功した。

 対して『ひらやすみ』は、日常生活を見せることに特化したドラマとなっており、物語というよりはエッセイを読んでいる時の感触に近い手触りとなっている。

 1話15分の帯ドラマという夜ドラに対して、この2作は正反対のアプローチで挑んだが、どちらも夜ドラならではの独自のドラマに仕上がっており、今後の夜ドラの型となっていくだろう記念碑的な作品になったと言える。

 また、ナレーションは小林聡美が担当しており、彼女の落ち着いた語りによって、遠くからやさしく登場人物を見守っているかのような、あまりベタベタとしない、程よい距離感が作品の中に生まれている。

 例えば、美大に進学したなつみは、感性の鋭い芸術家肌で、よく言えば繊細、悪く言えば自意識過剰。美大のオリエンテーションで自己紹介に失敗したなつみは、友達を作ることができずにどんどん孤立を深めていく。

 彼女は思春期特有の痛々しさが全開の少女だが、作り手の目線はとても優しく、良い意味で彼女の内面に対してうまく距離を取っており、過度に寄り添いもしなければ、露悪的に嘲笑することもない。

 おそらくその距離感を一番理解しているのは、なつみを演じる森七菜だろう。2025年は『ファーストキス 1ST KISS』、『国宝』、『フロントライン』、『秒速5センチメートル』といった映画に立て続けに出演した森七菜だが、演じる役柄に応じて、一から演技プランを組み立てており、全く異なる人物に成りきっていたことに驚かされた。

 今回のなつみの芝居も作りこまれており、やたらと手足をぶらぶらと動かす姿が印象的だ。喋り方もおっかなびっくりで挙動不審で、細かい仕草によって周囲とのズレが強調されている。

 だが、ヒロトも美大の同級生もそんな彼女の挙動不審な姿を愛嬌として捉えており、あまり気にしていない。むしろ、彼女が漫画を描いていることを同級生は尊敬している。実際、すでになつみは漫画編集者ともやりとりを始めており、才能があることは誰の目にも明らかだ。

 つまり、なつみは自己評価と他者評価がズレまくっているのだが、若い時は誰だってそういうものである。そんななつみの自意識過剰な振る舞いを、温かい目で本作は見守っている。

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