劇場版『わたなれ』の反響でアニメ映画界激震 唯一無二の“ゴミ”映像体験を見逃すな
成長譚としてのクオリティ(※微ネタバレ)
さて、れな子に告白した王塚真唯と瀬名紫陽花だが、必ずしも互いを蹴落としあうような関係にはならない。むしろポジティブな意味での切磋琢磨、共存の道はないだろうかと常に模索し、あるいは、たとえれな子がどちらかを選んだとしても、その選択を尊重する関係を求め続ける。
同様にれな子のほうも、この2人双方にとって誠実な態度とは何なのかと真剣に悩み続ける。自称“陰キャ”を信じて疑わないれな子は、いわゆる“陽キャ”代表の真唯と紫陽花に迫られて困惑している。クラスメイトの小柳香穂からは「贅沢な悩み」として一蹴されるが、本人にとっては切実な問題だ。
どのようにしてれな子はこの問いに決着をつけるのか。『ネクストシャイン』で描かれるのはそのような過程である。
この成長過程の通過儀礼として持ち出されるのが「コスプレイベント」だ。
とあるきっかけでれな子は、香穂とともにコスプレイベントに出場することになる。変装したうえに人前でポージングをして大勢のカメラマンに撮影されるなど、かつてのれな子にはまったく縁のない世界だった。しかし本人の懸命な努力と香穂の懸命な洗脳のおかげでコスプレイヤーとしての振る舞いを身につけていく。
そして気が付く。誰もが多少なりとも「仮面」を身につけていることに。
れな子から見れば天真爛漫な香穂も、コスプレを通して身につけた「仮面」でそのように振る舞っているだけなのだった。「素」の香穂は自身と同じような不安に、同じように悩まされている。れな子は思い知り、自己否定に苛まれていたパーソナリティをほんの少し克服する。
こうして通過儀礼を経たれな子は、やがて真唯と紫陽花に直面する。どちらかにとっては残酷な選択肢を、その責任を引き受ける覚悟を決めたかのようだ。
先述したような「ハーレムラブコメ」と「推し活エンパワーメント」のドラマはこうして合流する。このビルドゥングスロマンだけでも十分なクオリティを担保しており、未見の観客にとってはふざけているとしか思えないタイトルイメージに反して「感動して泣いた」といった感想が散見されるのも納得できる。
——でも、こんな王道すぎる展開で終われるわけないじゃん、ムリムリ! うおおネクストシャイン! とでも言わんばかりの、結末部のれな子が放ったのはまさかの(あるいは大方の予想通りの)一言。『マクロスF』もビックリの「決断」でこれまでの紆余曲折がすべて台無し、万象一切を灰燼と為して物語は幕を閉じる。
かつてのリヴァイ・アッカーマンのように、「悔いなき選択」の不可能性を現代人に突きつけて、れな子は「ゴミ」になる。
やがてEDテーマのクインテット(甘織れな子・王塚真唯・瀬名紫陽花・琴紗月・小柳香穂)「ディア・マイ・スペシャル・プレシャス・マーベラス・スウィート・ダーリンズ」とともに劇場版『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)~ネクストシャイン!~』は終幕する。
そしてれな子のもとに、琴紗月からあるメッセージが届く。それは物語の続きを示唆するとともに、れな子にとって新たな選択の始まりでもあった。
■公開情報
『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)~ネクストシャイン!~』
新宿バルト9ほかにて公開中
キャスト:中村カンナ(甘織れな子役)、大西沙織(王塚真唯役)、安齋由香里(瀬名紫陽花役)、市ノ瀬加那(琴紗月役)、田中貴子(小柳香穂役)、相良茉優(甘織遥奈役)
原作:みかみてれん(集英社ダッシュエックス文庫刊)
イラスト:竹嶋えく
監督:内沼菜摘
アドバイザー:加戸誉夫
シリーズ構成・脚本:荒川稔久
キャラクターデザイン:kojikoji
プロップデザイン:堀たえ子、矢萩利幸、原千遥
総作画監督:金子美咲、森谷春樹、塩川貴史、時乃キノ、阿見圭之介、新井達也、岸本誠司、仁井学、坂﨑忠
メインアニメーター:石井久雄、色彩設計、関本美津子
美術監督:高木佑梨、渡辺佳人
美術設定:高木佑梨、上田瑞香、田中孝典、掛井嶺、新井佳奈、本田こうへい
撮影監督:師岡拓磨
編集:茶圓一郎
音響監督:山口貴之
音響制作:HALF H・P STUDIO
音楽:藤澤慶昌
アニメーション制作:studio MOTHER
配給:ティ・ジョイ
©みかみてれん・竹嶋えく/集英社・わたなれ製作委員会
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