岡田将生が“声優”として開いた扉 『果てしなきスカーレット』で見せた演技の深化

岡田将生が“声優”として開いた扉

 スカーレットの宿敵・クローディアスをはじめ、今作『果てしなきスカーレット』には『ハムレット』の登場人物たちと同じ名前と近しい役割を持つキャラクターが多数存在する。その中でも岡田が演じている聖は、完全なるオリジナルキャラクターだ。彼は現代の日本から、スカーレットが旅をする“死者の国”にやってきた。そしてこの者こそが、本作における重要な主題を背負っている。報復の連鎖を前に、聖は敵対する者たちの命すら救おうとする看護師なのだ。彼の清らかな魂と強き心が、復讐心にかられるスカーレットに変化をもたらしていく。

『果てしなきスカーレット』©︎2025 スタジオ地図

 岡田の声は澄み渡っていて、とても滑らかだ。どんなときでも淀むことがなく、迷いがない。そしてそれは、自身の正義を信じて疑わないがゆえのものでは決してない。聖の関心は、つねに自分ではなく他者に向かっている。彼は目の前の命を救うことにためらいがない。それがどのような人間の命であれ、だ。ここに記したことを観客の誰もが感じるに違いない。脚本の執筆段階からそのように想定されていたのだろうし、レコーディングで岡田が演じる際には丁寧に共有されたはずだ。しかしだからといって、そう簡単に表現できるものなどではなかっただろう。岡田ははじめて、“声以外の表現”を封じられたのだから。

『ちょっとだけエスパー』©︎テレビ朝日

 30代半ばとなり、俳優・岡田将生はますます脂が乗ってきた。2025年は『御上先生』(TBS系)のヒール役が話題となり、映画『ゆきてかへらぬ』では実在した文芸評論家の小林秀雄を好演。続いて映画『アフター・ザ・クエイク』で主演を務め、原作である村上春樹の世界観の体現者のひとりとなった。現在はドラマ『ちょっとだけエスパー』(テレビ朝日系)で世界を救おうと奮闘する者たちの“ボス”役が大いに話題である。

 こうしてこの1年の間、岡田のさまざまな姿や表情を私たちは目にしてきた。だが、『果てしなきスカーレット』には彼の姿も表情もない。彼は声だけで役の感情の機微を表現し、作品世界の一旦を担わなければならない。そして岡田は、求められているものに十二分に応えている。

『果てしなきスカーレット』©︎2025 スタジオ地図

 澄み渡っていて滑らかな声は、演技者である岡田自身が持って生まれたものだろう。しかし声を発する際の抑揚やテンポは、彼が完全コントロールしているものだ。そしてここにこそ、聖というキャラクターの性質が強く表れる。レコーディングで画に声を乗せていくのは、実写作品で演じるのとはまったく異なる難しさがあるのだとよく耳にする。私たちの前に立ち上がる聖の清らかな魂と強き心は、声の使い手でもある岡田の技術によって実現しているわけだ。試行錯誤しながら役の声を掴んでいく演劇作品への参加も、大きく影響しているに違いない。俳優・岡田将生の新境地に、私たちはいま立ち会っている。

■公開情報
『果てしなきスカーレット』
全国公開中
出演:芦田愛菜、岡田将生、山路和弘、柄本時生、青木崇高、染谷将太、白山乃愛、白石加代子、吉田鋼太郎、斉藤由貴、松重豊、市村正親、役所広司
監督:細田守
配給:東宝、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
©︎2025 スタジオ地図
公式サイト:https://scarlet-movie.jp/
公式X(旧Twitter):https://x.com/studio_chizu
公式Instagram:https://www.instagram.com/studio_chizu/
公式Facebook:https://www.facebook.com/studiochizu

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる