『ちょっとだけエスパー』は何を描こうとしている? マーベル映画との類似点などから考察

第5話、そんな「Young3」、そして「Bit5」と名付けられた文太たちチームの混戦時に出現したのが、雪を降らせる能力を持つ、謎の「白い男」(麿赤兒)。麿赤兒といえば、暗黒舞踏集団・大駱駝艦の主宰であり、全身白塗りで踊ることから、謎の「白い男」役には相応しいといえるだろう。というか、麿赤兒のために当て書きした登場人物だと考えられる。
彼の「“ジャンクション”を戻しにきた」というセリフから判断するに、白い男は兆が目論む未来改変を、本来のあるべき流れに立ち帰らせようとしているようである。この点もまた、『アベンジャーズ』シリーズにおける、枝分かれによりカオスに突入するような未来改変を制御する立場を示唆しているのかもしれない。
兆が文太に語った「1万人を救う」という人道的な改変の目的が仮に真実だとして、白い男側の見通す「1000万人の犠牲」もまた真実なのだと仮定すれば、それは改変した未来のために、より大きな被害が出ることを暗示している可能性もある。
もし、今後このような展開が描かれるのであれば、その選択は思考実験の一つ「トロッコ問題」に行き着く可能性もある。より多い人々の命を救うため、目の前の大惨事を放置していいものなのか。必要悪としての大量死を受け入れられるものなのか。こういった葛藤に対峙した場合、文太は、そしてこのドラマを観るわれわれは何を思えばいいのだろうか。
ここまでの厳しい選択が本シリーズで描かれるのかは未知数だが、少なくとも命の問題に踏み込むことになるのは、展開上避けられないものと予想する。そうした場合、人はどのような判断基準を持つべきかという点が重要となる。複数の人々の命にかかわる選択をするであれば、『スパイダーマン』の諸作で語られる、「大いなる力には、大いなる責任が伴う」といったテーマにも触れることになるのではないか。
そこで、劇中で兆が語る理念の一つである、「ノナマーレ(non amare)」、つまり「愛してはならない」という考えが、文太たちの心情に影響を及ぼすことは間違いないだろう。この非人間的な理念は、どこかの時点で反転することになるかもしれない。こういった“戒め”を伏線として置いている以上、誰かを“愛すること”が今後の決断の鍵になることは、脚本上自然な流れだ。
前述したように、この作品は、社会や運命から見捨てられた人々の物語を描いている。エスパーやミッション、未来の枝分かれといった要素は、脚本家・野木亜紀子が、現代社会を描く上で設定したトッピングであり、その実となる部分は、個人個人がこの社会でどう生き、幸せをつかむことができるかという点に収束するのではないかと考えられる。
というのも以前、野木亜紀子氏に直接インタビューをした際に、ドラマシリーズとしては実験的なまでに社会のひだに繊細に触れ、脚本が向田邦子賞を受賞した『獣になれない私たち』(日本テレビ系)が最も好きな作品であることを伝えると、映画畑の人たちにはそのように言ってもらえるが、やはりTVドラマというフィールドでは、あのアプローチは難しかったという反応をもらったことが印象深かったからだ。
そうした葛藤から生まれた試行錯誤は、それ以前に『アンナチュラル』で得ていた手ごたえと、『MIU404』(TBS系)を経て、両作が「シェアード・ユニバース」として繋がった大ヒット映画『ラストマイル』(2024年)で大きく花開いた。映画『ダイハード3』(1995年)のようなゲーム的娯楽性の一方で、描かれるのは現代の日本に横たわる、現実の問題の数々。そこで宇野祥平が演じた「ラストマイル(顧客へ荷物を届ける最後の過程)」を担当する末端のドライバーは、まさにヒーローとして描かれた。
このような作品を通り抜けた経験を考えれば、本シリーズ『ちょっとだけエスパー』が、たとえ厳しい状態にあろうとも日々を生きようとする人々の目線に立ち、大きく社会を動かさない立場、歯車だと見られるような役割にこそ光を当てる作品だという予測ができるのである。
「Bit5」が、“ちょっとだけ”のエスパーであり、“ちょっとだけ”ヒーローであるように、われわれ視聴者もまた、一人ひとりは大それたことはできないかもしれない。しかし、それぞれの立場から“ちょっとだけ”世の中を好転させることはできるのではないか。一人ひとりによるちょっとだけの貢献が、世界を救う力となる。このテーマは、『ラストマイル』から引き継いで社会に投げかけられた、一人の脚本家の“願い”なのだと想像する。
■放送情報
『ちょっとだけエスパー』
テレビ朝日系にて、毎週火曜21:00~21:54放送
出演:大泉洋、宮﨑あおい、ディーン・フジオカ、宇野祥平、北村匠海、高畑淳子、岡田将生
脚本:野木亜紀子
監督:村尾嘉昭、山内大典
エグゼクティブプロデューサー:三輪祐見子(テレビ朝日)
プロデューサー:貴島彩理(テレビ朝日)、山形亮介(テレビ朝日)、和田昂士(角川大映スタジオ)
音楽:髙見優、信澤宣明
制作協力:角川大映スタジオ
制作著作:テレビ朝日
©︎テレビ朝日
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