『もしがく』菅田将暉がようやく主人公らしい回に 三谷幸喜の真骨頂といえる群像劇の仕掛け

11月19日に放送された『もしがく』こと『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』(フジテレビ系)第8話。そろそろ終盤戦に差し掛かりつつあるはずだが、いまのところこの物語の“落としどころ”と呼べるものは見当たらない。強いてあるとすれば、序盤で劇場オーナーのジェシー(シルビア・グラブ)が、久部(菅田将暉)がいなくても蓬莱(神木隆之介)がいればなんとかなると言っていたように、演出家と演出助手である2人の関係か。はたまたWS劇場自体の存続問題といったところであろうか。
さて、WS劇場では是尾(浅野和之)の注文通りに『冬物語』の上演が始まるのだが、久部はジェシーから上演時間を半分にして回数を増やし、集客を上げることを命じられる(とりあえずセリフのテンポを速めるくだりは実にシュールであった)。場内では樹里(浜辺美波)が台本のブラッシュアップ作業のためにメモを取りながら観劇し、舞台上ではパトロールを抜け出して出演した大瀬(戸塚純貴)があまりにも堂々と初舞台をこなす。そんななか、是尾は客席にいたトロ(生田斗真)のヤジですっかり落ち込んでしまうのである。

リカ(二階堂ふみ)の元情夫であるトロという男の登場によって、物語全体が大きく動かされる――あるいは掻き乱されるのかと思いきや、今回のエピソードは非常にシンプルでまとまりのある作りとなった印象だ。というのも、これまでのエピソードは久部を中心に据えながらも、20名以上いる登場人物たちが右往左往を繰り返していくドタバタな群像を描くことに焦点が置かれていたのに対し、今回はあくまでも久部一本。リカへの思いをこじらせて暴走させる久部を描くことに専念しているからだ。

上演中にヤジを飛ばしていた男(=トロ)がリカの“関係者”であると伴(野間口徹)から教えられ、すぐさま察して心ここにあらずとなる久部。やんわりと久部に好意を抱いている樹里が傷口に塩を塗って、リカとトロがいるテンペストに向かった久部は、リカを引き止めようとするもまったく相手にされない。そしてトロと直接対峙すれば、ガチガチに緊張してまるで歯が立たず、ナイフで脅されて意気消沈してしまう始末。それでも論平(坂東彌十郎)がリカのために神社の宝をトロに渡そうとするのを止めてほしいと樹里に頼まれ、再びトロに立ち向かう。

放心状態から、樹里に乗せられて、テンペストへ向かい、トロと対峙する。この流れを反復させながら、どこまでも三枚目のキャラクターを貫く久部。その一方で、逆襲のために手にした拳銃がおもちゃであると気付き、気迫だけで果敢に攻め込みトロを怯ませ、「芝居に大事なのは自分を信じる心だ」と是尾の受け売りで丸く収める。もちろんこれは、トロの方も久部と同じように小心者(ヤジのくだりではフォルモンに怒鳴られて黙ってしまう)だから成立したわけだが、まさかこの終盤に来て場を掻き乱すのが主人公自身であろうとは。そういった意味で、ようやく主人公が映えるエピソードとなったことは間違いない。

それにしても、この冗談のような畳み掛けが成立しているのも、久部が拳銃を本物だと錯誤してしまうからに他ならない。そもそも朝雄(佐藤大空)が大瀬の提げている拳銃を触りたがり、伴がおもちゃの拳銃を作ってプレゼントすることに起因しており、つまりは現役警察官である大瀬が劇団の仲間入りを果たしたこと、朝雄という無邪気な子どもが身近にいてこそ。こうした直接物語に大きな作用をもたらさないと思われがちだった登場人物の属性が主人公に対して効果的に活きる点は、群像劇として実に秀逸である。
■放送情報
『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』
フジテレビ系にて、毎週水曜22:00~22:54放送
出演:菅田将暉、二階堂ふみ、神木隆之介、浜辺美波、戸塚純貴、アンミカ、秋元才加、野添義弘、長野里美、富田望生、西村瑞樹(バイきんぐ)、大水洋介(ラバーガール)、小澤雄太、福井夏、ひょうろく、松井慎也、佳久創、佐藤大空、野間口徹、シルビア・グラブ、菊地凛子、小池栄子、市原隼人、井上順、坂東彌十郎、小林薫ほか
脚本:三谷幸喜
主題歌:YOASOBI「劇上」(Echoes / Sony Music Entertainment (Japan) Inc.)
音楽:得田真裕
プロデュース:金城綾香、野田悠介
制作プロデュース:古郡真也
演出:西浦正記
制作著作:フジテレビ
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