『ぼくたちん家』が描く社会に隠された“ステレオタイプ” 3人の共同生活に新たな“波乱”が

『ぼくたちん家』共同生活に新たな“波乱”

 ほたるが好きな食べ物として挙げたのは“お味噌汁”と“ししゃも”。母親のレシピを参考にして、隠し味に本みりんを入れた特製の“お味噌汁”はもちろん、玄一にお裾分けしてもらった“ししゃも”が好物になったと明かしたのは、彼女の気持ちにも変化が生じたからだろうか。母親のことを「頑張っている人って感じでした」と称するほたるに、玄一は「じゃあ似てるじゃん」とさらっと言ってのけたときの彼女の嬉しそうな表情は忘れられない。

 しかし、ほたるの実の父親であるロクデナシな父・仁(光石研)が玄一らのアパートにやってきて、己の私利私欲のために3人の共同生活をかき乱す。索に対して「わかるわかる。男って家に居場所ないから。そういうとき車に逃げこむよねぇ」と口にしていたことから、仁は再婚した家庭で居場所がないのかもしれない。何度も訪れているクレープ屋でほたるから「別に好きじゃない」といちごを突き返される姿は、結果的に彼女の好きな食べ物を増やすことになった玄一とは正反対のようにも思えた。

 3000万円目当てに、ほたるの部屋の中を無理矢理に捜索しようとする仁は、大家の井の頭(坂井真紀)に不審者として扱われ、娘にも「帰ってください」と追い返される。ただ、そこに合流した玄一と索の前でほたるを指差して「この子の父親だけど」と言うものだから現場は大混乱。親子のフリをする計画は、担任教師の索には早々にバレてしまった。

 それでもなお、玄一は「お父さんです!」力強く宣言する。仁は「ゲイがお父さんて変だろ。なんだよそれ」と半笑いで口にしていたが、そういった身勝手な決めつけによって、性的マイノリティの人々が今までどれだけ苦しめられてきたのだろうか。

 その後、索は嘘をついていたほたるを叱るどころか「ごめんね」と謝罪して、両親がいないことやゲイであることを打ち明ける。友達との会話でも、架空の親や彼女を作ってやり過ごしていた彼は、ほたるが家庭環境を切実に隠し通そうとした気持ちが痛いほどわかったのだろう。

 本作は性的マイノリティをめぐる社会の状況に対する言及を欠かさない。岡部が「LGBTQフレンドリーな物件(LGBTQであることを理由に、入居の相談や入居事態を断らない物件)」があることを索に伝えていたが、マジョリティである私たちが知らなければならないことはきっとまだまだ多い。ほたるが索のパーソナルな事情を知ったことを玄一に伝えたときも、玄一は本人の口から聞いたかどうかをちゃんと確認していた。ささいな会話にも、制作陣からの大切なメッセージが込められている。

 新しい家族のカタチを壊そうとする人物が去って、ようやくひと安心だと思ったのも束の間、「頼まれたからって何でもするんですか」と問い詰める索に対して、思わず「好きなんです」と告白する玄一。3人の共同生活に巻き起こる波乱は、まだまだ収まりそうにない。

『ぼくたちん家』の画像

ぼくたちん家

現代に様々な偏見の中で生きる“社会のすみっこ”にいる人々が、愛と自由と居場所を求めて、明るくたくましく生き抜く姿を描くホーム&ラブコメディ。

■放送情報
『ぼくたちん家』
日本テレビ系にて、毎週日曜22:30~放送
出演:及川光博、手越祐也、白鳥玉季、田中直樹、渋谷凪咲、坂井真紀、光石研、麻生久美子
脚本:松本優紀、渋谷凪咲、田中直樹
演出:鯨岡弘識、北川瞳
インクルーシブプロデューサー:白川大介
チーフプロデューサー:松本京子
プロデューサー:河野英裕、西紀州、岡宅真由美
音楽:東川亜希子、神谷洵平
主題歌:「バームクーヘン」
制作協力:AX-ON
©日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/bokutachinchi/
公式X(旧Twitter):https://x.com/bokutachinchi
公式Instagram:https://www.instagram.com/bokutachinchi/
公式TikTok:https://www.tiktok.com/@bokutachinchi

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