『ばけばけ』髙石あかりと寛一郎の想いがすれ違う “やり直し”をめぐる答えの出ない恋

『ばけばけ』髙石あかりと寛一郎がすれ違い

 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』第19話では、トキ(髙石あかり)と銀二郎(寛一郎)の思いがすれ違う。松江に残りたいトキと、東京で夫婦としてやり直したい銀二郎。2人の願いは交わりそうでいて、わずかにずれていく。

 夜、目を覚ましたトキの前に現れたのは、錦織(吉沢亮)。「迷ってるのか?」と穏やかに問いかける。東京は誰もがやり直せる場所。錦織は続けて「君はやり直したくないか?」と語る。どこか諭すようで、どこか挑むようでもあるその言葉に、トキはすぐに答えを出せない。夢と現実の間で揺れる若者の一瞬を、髙石あかりは声を荒げることなく、まなざしの揺らぎだけで表現していた。

 翌朝、錦織と庄田(濱正悟)が試験に向かう場面では、松江を離れることの意味が静かに描かれる。錦織は松江でも評判の高い秀才だったが、貧しい家庭環境と病弱な体ゆえに中学を中退し、それでも諦めずに無資格で教師をしていたという。その隣で彼を支えてきたのが庄田だった。庄田は、同じく松江の中学校で共に教壇に立った旧友であり、彼にとっては唯一無二の“戦友”のような存在だ。

 庄田を演じる濱正悟は、NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』で中澤役を演じて以来の朝ドラ出演となる。あのときの誠実でどこか不器用な青年像が印象的だったが、今作でもその繊細なまなざしと静かな熱をそのままに、錦織の背中を押す友人の温かさを体現している。短い登場ながらも、言葉よりも態度で支える誠実な人物像が際立っていて、物語に深みを与えていた。彼がこれからどのようにトキや錦織の運命に関わっていくのか、今後の展開にも期待が高まる。

 一方、松江では勘右衛門(小日向文世)が親戚であるタエ(北川景子)のもとを訪ね、トキが松江に帰らないかもしれないと打ち明ける。家宝の鎧や刀を売ってまでも孫の夢を後押しした勘右衛門。タエはそんな勘右衛門の姿に、かつてトキを預けた日のことを思い出す。「おトキを預けたのがあなたたちでよかった」と、そっと微笑むタエ。その柔らかな声色には、母としての悔いと感謝、そして再び歩き出す覚悟が滲んでいたように思うのだ。タエはここで、松江を去る決意を明かす。

 その頃、東京では、トキが道に迷い、怪しげな男に声をかけられるという一幕が起こる。緊張が走るその瞬間、偶然にも銀二郎が現れ、トキを助け出す。久しぶりに顔を合わせた二人の間に流れる沈黙。互いに言葉を選びながら、ぎこちなく並んで歩く姿がどこか微笑ましい。ようやく落ち着いたトキは「銀二郎さんと2人で……」と口にしかけるが、最後まで言葉を飲み込んでしまう。その逡巡が、彼女の中にある“答えの出ない恋”を象徴していた。松江に帰るのか、それとも銀二郎とともに東京で新しい人生を歩むのか。どちらを選んでも、トキの中にあるのは家族と幸せに過ごしたいというまっすぐな願いだろう。どちらにせよ、銀二郎と一緒に笑い合える未来を心のどこかで思い描いているはずだ。

 第19話は、誰もがそれぞれの“やり直しの場所”を探している回だった。東京で再出発を望む銀二郎、松江に残りたいトキ、夢を託す勘右衛門、そして故郷を離れるタエ。どの選択も間違いではなく、誰もが「生き直す」ために迷い続けている。髙石と寛一郎が見せたわずかなすれ違いの間こそが、この物語の美しさであり、哀しさでもある。

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「リキャップ」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる