『ぼくたちん家』玄一たちの“生きづらさ”があらわに クセになる及川光博のコミカルな芝居

『ぼくたちん家』及川光博の芝居がクセになる

 ほたるの家庭の事情を把握した玄一は最初、親子契約を断ったものの、面談に現れたとき、索と警察官の松梅子(土居志央梨)に「うちの“娘”がお世話になっております」と告げる。それは、玄一の優しさだけでなく、覚悟の表れでもあった。ほたるのことを「辛かったこととか、たくさん話してくれて。それでこの子には、生活とか、ご飯とか、お金のこととかそういうのじゃなくて。何が好きかとか。誰が好きかとか。そういうことで頭をいっぱいにしてほしいなって」と話す玄一。これまでは心優しき性格ゆえに、ほたるのことを放っておけない“アパートの隣人”として心配していたが、この瞬間は違った。

 靴箱に入っていたラブレターを裏紙にして、生活のために必要な家計費を書き出す彼女に、等身大の喜びや楽しみを体感してほしい。世間の目を気にすることなく、伸びやかに好きなものを見つける10代を過ごしてほしい。そんな玄一の優しさに裏打ちされた決意が伝わってきた。

 彼の思いが届いたかどうかはわからないが、過去にミュージシャンを志していた玄一に対して、話題性を出すためだけに“ゲイ”という性的指向を利用しようとした人物に、ほたるは「そんなこと言ったやつに送りつけてやりましょう。『お腹に穴空けなくても大丈夫です』って書いて。ししゃも爆弾。送りましょう」と口にする。ユニークだけど確かに伝わる静かな憤りは、このドラマを通して描かれているテーマでもあった。

 それにしても、玄一が不意をつかれたときに出る「ええっ」という間の抜けた相槌がなんともクセになる。シリアスな雰囲気で場が重たくなるときでも、不安げな表情でツッコミを入れる及川光博のコミカルなお芝居が、空気を和らげてくれるのも大きい。玄一の相談に対して秀逸な例えでアドバイスを送る百瀬(渋谷凪咲)や、秘密がありそうなアパートの大家・井の頭(坂井真紀)との会話にもついついクスッと笑ってしまう。

 玄一の部屋を訪れたほたると机に座って対峙するカットでは、2人の間に家を支える“不自然な柱”があり、それぞれを隔てている。それでも、玄一らが住むアパートの敷地で車中泊をさせてもらえるようになった索も含めて、物理的にも心理的にも、少しずつ彼らの距離は縮まっているように思う。

 好きなものを見つける。好きなものを好きなように言える。そんな社会で生きる玄一や索、ほたるの姿を見てみたい。心の底からそう思う回だった。

『ぼくたちん家』の画像

ぼくたちん家

現代に様々な偏見の中で生きる“社会のすみっこ”にいる人々が、愛と自由と居場所を求めて、明るくたくましく生き抜く姿を描くホーム&ラブコメディ。

■放送情報
『ぼくたちん家』
日本テレビ系にて、毎週日曜22:30~放送
出演:及川光博、手越祐也、白鳥玉季、田中直樹、渋谷凪咲、坂井真紀、光石研、麻生久美子
脚本:松本優紀、渋谷凪咲、田中直樹
演出:鯨岡弘識、北川瞳
インクルーシブプロデューサー:白川大介
チーフプロデューサー:松本京子
プロデューサー:河野英裕、西紀州、岡宅真由美
音楽:東川亜希子、神谷洵平
主題歌:「バームクーヘン」
制作協力:AX-ON
©日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/bokutachinchi/
公式X(旧Twitter):https://x.com/bokutachinchi
公式Instagram:https://www.instagram.com/bokutachinchi/
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