『あんぱん』は“推し活”によって救われる物語 今田美桜演じるのぶは視聴者の分身だった

様々な仕事に就きながら、どれも身につかなかったこと。そして、嵩の赤ちゃんを産むことができなかったことに彼女は苦しみ「何者にもなれんかった」と語る。ここで初めて彼女の内面が理解できたような気がした。

「何者にもなれんかった」とは、自分の内面が空っぽで何もないという意味も含まれるのだろう。その空っぽの内面を埋めるために、彼女は愛国思想に染まってしまったのかもしれない。おそらく当時も現在も、のぶのような人は大勢いるのだろう。その意味で彼女は我々、視聴者の分身でもある。
放送期間中は「『あんぱん』の主人公はなぜ嵩ではなくのぶなのか?」ということがSNSで議論されることが多かった。
『アンパンマン』誕生秘話を中心としたやなせたかしの創作にまつわるエピソードを期待した人ほど戦後編には批判的だったが、何かを成し遂げた天才クリエイターの話ではなく、その周辺にいた平凡な人々の物語を『あんぱん』は描こうとしていたのだろう。

そして、「何者にもなれんかった」と嘆く普通の人々の悲しみと不安こそが、簡単にひっくり返ってしまう正義の正体であり、そんな不安定な正義に翻弄され続けたのがヒロインののぶだったと言える。
では、国家の正義以外のもので「何者にもなれんかった」人々の傷を癒すことは可能なのか?
その答えが終盤で描かれた、嵩が生み出した『アンパンマン』を多くの子供たちに届けようと奮闘するのぶの姿である。
第126話では、のぶの母親・羽多子(江口のりこ)が『アンパンマン』 はのぶと嵩にとっての子供であり、のぶは「幸せなお母さん」だと言う場面には不思議な感動がある。
「何者にもなれんかった」のぶが作品の魅力を子供たちに伝える「推し活」によって救われる物語を『あんぱん』は描いたのだと感じた。
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK






















