『あんぱん』MVPは間違いなく八木信之介=妻夫木聡 物語を動かす“要”としての重み

『あんぱん』MVPは八木信之介=妻夫木聡

 “戦後80年”という節目の年である2025年。『あんぱん』は全体的に朗らかな作品だったが、明確に反戦の意志と平和を希求する態度を示し続けた。そしてこれを観客に対してダイレクトに伝える役割を担っていたのが、俳優・妻夫木聡だというわけだ。物語が進むにつれて時代は変わり、八木もまた朗らかな人物になっていった。けれどもその存在はいつもどこか陰りを帯びていた。八木というキャラクターの持つ複雑さを、陰と陽のバランスを、妻夫木は最後の最後まで丹念に、慎重に体現し続けていたと思う。声の質感にも表情にも、つねに葛藤が滲んでいた。本作における妻夫木の功績は非常に大きい。俗っぽい表現になるが、間違いなくMVP級だろう。

『宝島』©真藤順丈/講談社 ©2025「宝島」製作委員会

 そんな彼は現在、主演を務めた映画『宝島』が公開中。戦後の沖縄を舞台とした本作もまた、あの戦争に翻弄され続ける人々の人生を描く作品だ。沖縄といえば日本で唯一の地上戦が行われた場所。アメリカの統治下にあったこの地の実態に、凄まじい熱量で肉薄している。主人公のグスクを演じる妻夫木は作品の中心に立ち続け、この座組を率いているのだ。

 八木が『あんぱん』のテーマを体現していたように、グスクもまた、『宝島』が持つメッセージを体現したキャラクターだ。とはいえ、そのタイプは完全に異なる。真逆だといえるものだろう。

 ここでは『宝島』の物語に深く言及することは控えておく。ネットの評判などに惑わされず、まずはこの作品と対峙してほしいからだ。半年間かけて放送される「朝ドラ」ならば、じっくりと時間をかけて視聴者に物語を理解してもらい、その世界の中で生きる者たちの人生を知ってもらえばいい。八木信之介がそうだった。けれども映画はそうはいかない。『宝島』は191分の長尺映画だが、ここに収められている情報量はとてつもない。一度観ただけですべてを把握することは難しいだろう。そこに何を見い出し、拾い上げ、映画が終わったあとの現実世界を生きていくか。これが私たち観客に求められるものだ。

『宝島』©真藤順丈/講談社 ©2025「宝島」製作委員会

 戦後の動乱期の沖縄で、この地で生まれ育ったグスクたちはぶつかり合い、そこから生まれる“叫び”に私たちは劇場で触れることになる。この体現者たちの真ん中に立つのが、俳優・妻夫木聡である。『あんぱん』での好演に心を揺さぶられた方々はぜひ、すぐにでも劇場へと足を運んでいただきたい。我々の信頼する演技者が、仲間たちとともに切実なメッセージを叫んでいる。

■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』特別編
NHK総合にて、9月29日(月)~10月2日(木)(全4回)23:00~23:25放送
9月29日(月)第1回「健ちゃんのプロポーズ」(15分)主人公:辛島健太郎(高橋文哉)
今田美桜、髙石あかり対談(10分)
9月30日(火)第2回 「メイコの初舞台」(15分)主人公:辛島メイコ(原菜乃華)
河合優実×原菜乃華×高橋文哉×大森元貴による座談会(10分)
10月1日(水)第3回「男たちの行進曲」(15分)主人公:いせたくや(大森元貴)
今田美桜×北村匠海による対談 前編(10分)
10月2日(木)第4回「受け継ぐもの」(15分)主人公:中尾星子(古川琴音)
今田美桜×北村匠海による対談 後編(10分)
写真提供=NHK

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