『ぼくほし』と『しあわせな結婚』は正反対? 大森美香と大石静のアプローチの違いを読む

『しあわせな結婚』と『ぼくほし』は理想とされていることが正反対

一方、『ぼくほし』は、スクールロイヤーを主人公にした異色の学園ドラマだが、こちらも大森美香らしい作品となっていた。
スクールロイヤーとして私立高校に派遣された弁護士・白鳥健治(磯村勇斗)は生徒や教師の間で起こる学校内でのトラブルに対して、法律家の立場から問題に切り込んでいくのだが、盲目的に正しいものとして扱われてきた家族や恋人への強い愛情ではなく、法律や学問に根差した理路整然とした正しさを信じて行動しようと提示している冷静な点が大森美香作品らしいと思った。
これは今クールに放送されていた弁護士を主人公にした大石静脚本の連続ドラマ『しあわせな結婚』(テレビ朝日系)とは好対照のアプローチである。
『しあわせな結婚』は妻のネルラ(松たか子)が「元恋人を殺害したのではないか?」という殺人事件の謎が引きとなっている作品だったが、事件を解決した弁護士で夫の幸太郎(阿部サダヲ)はネルラから法律的な真実と家族の真実は違うと、否定されてしまう。
弁護士が主人公で宮沢賢治が重要なモチーフとなっていながら『しあわせな結婚』と『ぼくほし』では、理想とされていることが正反対だ。
法律に根差した社会的な正しさよりも、夫婦や家族を守ろうとする個人的な愛に殉じる姿を描こうとする『しあわせな結婚』の姿勢は、メロドラマを書き続けてきた大石静らしいアプローチだ。少し前なら「これこそがドラマだ」と感じただろう。
逆に『ぼくほし』は、少し前なら人間味のない冷たい作品に映ったかもしれない。だが、野木亜紀子脚本の『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)や吉田恵里香脚本のNHK連続テレビ小説『虎に翼』を経由した後だと、本作の理知的な振る舞いの方が近年のテレビドラマのスタンダードだと感じる。
その意味で『ぼくほし』は、大森美香が近年の流行に合わせて書いた学園ドラマと言えるかもしれない。だが、これは順番が逆で2000年代に大森美香が『きみはペット』(TBS系)や『不機嫌なジーン』(フジテレビ系)で試行錯誤していたポスト恋愛ドラマ的なアプローチが、やっと世の中に理解されるようになったと考えるべきだろう。
法律を背景にした理知的で冷静な振る舞いの方が、衝動的な愛情表現よりも美しく見える時代になった今、テレビドラマはどこに向かうのだろうか? 大森美香が書いた2作の連続ドラマを観て、改めて考えさせられた。
何事にも臆病で不器用な主人公が、共学化で揺れる私立高校にスクールロイヤー(学校弁護士)として派遣されることになり、法律や校則では簡単に解決できない若者たちの青春に、必死に向き合っていく学園ヒューマンドラマ。
■配信情報
『僕達はまだその星の校則を知らない』
TVer、FOD、Netflixにて配信中
出演:磯村勇斗、堀田真由、平岩紙、市川実和子、日高由起刀、南琴奈、日向亘、中野有紗、月島琉衣、近藤華、越山敬達、菊地姫奈、のせりん、北里琉、栄莉弥、淵上泰史、許豊凡(INI)、坂井真紀、尾美としのり、木野花、光石研、稲垣吾郎
脚本:大森美香
音楽:Benjamin Bedoussac
主題歌:ヨルシカ「修羅」(Polydor Records)
監督:山口健人、高橋名月、稲留武
プロデューサー:岡光寛子(カンテレ)、白石裕菜(ホリプロ)
制作協力:ホリプロ
制作著作:カンテレ
©︎カンテレ
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