『リンダ リンダ リンダ』から『ぼっち・ざ・ろっく!』へ いまも息づくバンドものの源泉

登場人物の成長描写の薄さという点では、今泉力哉の映画を思いだす。今泉は『リンダ リンダ リンダ』の監督・山下敦弘に中野駅のトイレで初めて出会い、『リンダ リンダ リンダ』のエキストラ募集に誘われたという。その後ワークショップの手伝いをしたり、短編映画の編集をしたりと2人の親交は深く、今泉は山下について「ほんとに出会ってなかったら今の自分はいないくらい作品からも人物からも影響を受けた監督」と公言しているほどだ。
今泉の監督する作品の登場人物たちは成長しない。たとえば『街の上で』の主人公・青(若葉竜也)は、彼女との別れや自主映画への参加というイベントを経るが、映画のはじまりとおわりで大きく性質が変化することはなく、なにか啓示的な学びを得るわけでもない。それはリアリズムであるともいえるし、変わらない現実を生きる変わらないわたしたちへのエールであるともいえる。変わらなくてもよいのだと説いてくれるフィクションの存在は、たしかにわたしたちの日常を祝福してくれる。

『リンダ リンダ リンダ』もまた、女子高生の華やかな成長譚ではない。彼女たちが文化祭後どうなったのかは本編では描かれず、観客の想像に任されている。彼女たちはあのメンバーでバンド活動を続けたのだろうか、ソンはいつ韓国に帰るのだろうか——答えはすべてわたしたちに開かれている。願わくば彼女たちのゆるくたのしい日常と雰囲気が保存され、「別に意味なんかないよ」と無意味なことに真剣になれる大人になっていますように、そして時には集まって駄弁る仲でありますように。
『リンダ リンダ リンダ』を初めて観た高校生のころ、毎週部室で駄弁っていたバンドメンバーたちとはすっかり疎遠になってしまった。当時は知りもしなかったけれども、こういうゆるい空気を存続させることは大人になればなるほど難しい。だからこそ『リンダ リンダ リンダ』がスクリーンに映しだしたユートピア的なゆるさに癒され、そして励まされた。変わらないゆるい日常にこそ、人生が立ち現れるのだ。
■公開情報
『リンダ リンダ リンダ 4K』
公開中
出演:ペ・ドゥナ、前田亜季、香椎由宇、関根史織(Base Ball Bear)、三村恭代、湯川潮音、山崎優子(meism)、甲本雅裕、松山ケンイチ、小林且弥、小出恵介、三浦誠巳、りりィ、藤井かほり、近藤公園、ピエール瀧、山本浩司、山本剛史
監督:山下敦弘
主題歌:「終わらない歌」(ザ・ブルーハーツ)
脚本:向井康介、宮下和雅子、山下敦弘
音楽:James Iha
製作:「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ
配給:ビターズ・エンド
2005/日本/114分/カラー
©「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ
公式サイト:www.bitters.co.jp/linda4k
公式X(旧Twitter):@linda_4k
公式Instagram:@lindalindalinda4k






















