『ブラック・ショーマン』が描いた2つの社会派テーマ ムラ社会と町おこしの課題とは

そしてもうひとつのテーマは地域活性化の現実。

原作の『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』は、2020年のコロナ禍真っ只中に、パンデミック中の出来事として書かれた小説であるが、映画版ではコロナ禍後となっている。ところが今作が深刻な問題として描いている町の空洞化に関しては、逆に小説版よりも悪化した状況下といえるだろう。もともと観光客が少なかったうえに、コロナパンデミックの影響が被さり、都会や主要な観光地のようなインバウンド需要も見込めない小さな町が舞台だからだ。
町おこしとして、その町の風景をモデルにした漫画『幻脳ラビリンス』の聖地とすることで、町中があやかろうとしている。これはよくある話で、とくにアニメや漫画を日本の文化として全面に出していこうという風潮になっていた2010年以降に極端に多くなった印象が強いし、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』や『ガールズ&パンツァー』のように、町の活性化に繋がった成功例も多い。

しかし、アニメや漫画は海外でも人気ではあるからインバウンドも見込めるというのは安易な話であって、それはあくまで限られた作品である。そんな漠然とした情報だけで見切り発車して、予算の都合や認可など、現実的に難しく頓挫したり、実現はしたものの、観光客が全く増えない、そんな町おこし格差が強く反映されている。しかし、コロナ禍の影響で、もはやそこにすがるしかない現実の厳しさが町中に漂っている。
一見、エンタメ映画に思えるかもしれないし、実際にそういった側面もあるが、根底にあるテーマを強く活かした構成は、監督の力量ともいえるだろう。

今作の監督を務めた田中亮は、ドラマ版、劇場版ともに『コンフィデンスマンJP』シリーズを手掛けてきたことでも知られているが、実は今作に近いテーマを映画『イチケイのカラス』(2023年)でも扱っていた。同作は、ある企業によって成り立っている工業地帯の小さな町を舞台としていた。つまりどちらも取り残された地方の現実を突きつけられる作品であり、エンタメと社会派の中間を描くのに長けている。
事件の真相には、物足りなさを感じるかもしれないが、今作は謎解き要素が主軸ではない。あくまで架空の町でありながらも、どこかで起きている現実問題を浮き彫りにしている。かと言って、重厚に描いているというほどの温度感ではないからこそ、日ごろ目を背けている身近な問題を描いていることが伝わってくるのだ。
■公開情報
『ブラック・ショーマン』
全国公開中
出演:福山雅治、有村架純、成田凌、生田絵梨花、木村昴、森永悠希、秋山寛貴(ハナコ)、岡崎紗絵、犬飼貴丈、森崎ウィン、伊藤淳史、生瀬勝久、仲村トオル
原作:東野圭吾『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』(光文社文庫刊)
監督:田中亮
脚本:橋本夏
音楽:佐藤直紀
配給:東宝
©2025「ブラック・ショーマン」製作委員会
公式サイト:https://blackshowman.jp
公式X(旧Twitter):@blackshowman_mv
公式Instagram:@blackshowman_mv





















