『アイス・ロード:リベンジ』にみる、リーアム・ニーソンのアクション映画のマンネリズム

『アイス・ロード:リベンジ』の90年代感

 そして、タイトルに冠した「アイス・ロード」だが、今回は山岳地帯に一部凍結した危険な道路が登場することで、アリバイ的に意味を回収している。これは、凍りついた湖面を走るという見せ場が大きな意味を果たしていた前作と比べると、やや期待外れに思える箇所だ。

 さらに引っかかってしまう点は、キャスティングだ。YouTuberとして活躍する、インド系のサクシャム・シャルマがネパール人を演じるのには、それほど不自然さはないが、中国出身のファン・ビンビンがシェルパ族とマレー系をルーツに持つ女性を演じるのは、センシティブな面があるだろう。

 本作でも時折示唆されるように、中国はネパールやチベットに大きな影響力を及ぼす大国であり、とくに中国がチベットを実効支配している、いわゆる「チベット問題」を考えると、歴史的にチベットの民族と共通したルーツを持つシェルパ族を、中国出身の俳優が演じることには、倫理的な疑問符がつきそうだ。

 そして、最大の問題は、70代のニーソン演じるマイクが、40代のビンビン演じる女性との恋愛感情が示唆される箇所である。役柄の年齢はともかく、30歳もの年の差がある関係というのは、性差別や男女間の格差が大きな問題として考えられてなかった時代のハリウッド映画のキャスティングを思い出させるほどのものがある。観客も、「えっ、この2人が?」と、さすがに驚いたのではないだろうか。

 Netflix配信の作品『ラクパ・シェルパ:エベレストの女王』(2023年)は、エベレスト女性登頂回数の世界記録を達成した、シェルパ族の女性ラクパが山に挑戦する姿が描かれたドキュメンタリーだ。彼女はアメリカの登山家男性と結婚後、度重なるDV被害を経験し、その事実は過去に大きなスキャンダルとして報じられた。ネパールの若い女性が、外国人男性との経済的な格差を背景に、婚姻関係を結ぶという構図は、しばしば搾取が指摘される面がある。

 もちろん、本作のマイク・マッキャンとダニーとの関係は、そういった搾取構造とは異なるものだといえそうではあるが、やはりラクパ・シェルパの件もあり、アメリカ人男性と年の差があるシェルパ族との恋愛というのは、さすがに無神経に過ぎる設定といえるだろう。それはまた、中年以降の男性のロマンという文脈のなかで、一種のサービスとして機能してしまっている。そういった悪い意味でも本作は、90年代の雰囲気を纏っているといえそうだ。

 とはいえ、本作のスタッフがロケをしたという、ネパールの景色は壮観だ。山の中腹を削ったような、崖スレスレの冗談のような危険な道路には驚愕するし、中国との交易道路、「アラニコ・ハイウェイ」近辺の、天空の景色は、あまりにも壮観で、夢に出てきそうな不思議な空気に包まれている。そんな場所でバスを猛スピードで走らせるというのは、荒唐無稽ながら、見たことのない映像になっているのも、たしかなことである。

 しかし、一部のシーンや観光地の映像以外、本作の大部分はオーストラリアで撮影されているという。ネパールの山岳地帯の村も、オーストラリアの既存の町を飾りつけ、ネパール風に見せかけて撮っている。セット、CGI、合成などによって、本作は成り立っているのである。そこまでしなければならないほど、ネパールでの撮影条件には、さまざまに厳しいものがあるのだろう。とはいえ、その事実を知るとやや萎えるところもある。

 本作『アイス・ロード:リベンジ』は、このように、悪く言えば大ざっぱで、しばしば無神経な描写をしてしまう作品だ。しかし、90年代あたりのアクション作品には、このような要素が確かに多かった。その時代の観客には、これも含めて懐かしさをおぼえてしまうのかもしれない。しかし同時に、リーアム・ニーソンのアクション映画が、一部の中年以上の層という範囲で消費されるものになってきていることは、やや寂しさをおぼえるところだ。

参考
https://4filming.com/ice-road-vengeance-filming-locations-2025/

■配信情報
『アイス・ロード:リベンジ』
Prime Videoにて配信中
出演:リーアム・ニーソン、ファン・ビンビン、バーナード・カリー、グレース・オサリバン、サクシャム・シャルマ、マーカス・トーマス
監督・脚本:ジョナサン・ヘンズリー
©Amazon MGM Studios

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