『ぼくほし』“健治”磯村勇斗が伝えた愛の言葉　苛酷な現実を救うファンタジーの力

　『僕達はまだその星の校則を知らない』（カンテレ・フジテレビ系）第9話では、健治（磯村勇斗）に不意の来客があった。

　文化祭当日。北原（中野有紗）と父親の一件があり、天文部では、斎藤（南琴奈）の中学時代の友人も遊びにきた。江見（月島琉衣）は「宇宙が崩壊してきた」と絶叫する。そんな中、天文ドームに姿を見せたのは、健治の父の誠司（光石研）と祖母の可乃子（木野花）だった。なごやかに部員たちと作業していた健治は、誠司に会ったとたん固まってしまう。そこに現れたのが理事長の尾碕（稲垣吾郎）で、誠司と言葉を交わす尾碕を前にして、健治の混乱と緊張は限界に達する。目覚めたとき、そこは保健室だった。

　旧知の仲である尾碕と談笑する誠司。「迷惑をかけた」という誠司の言葉に、健治は敏感に反応する。追い討ちを駆けるように、尾碕からは、健治が「学校は嫌い」で、「生徒の心の傷ばかりが気になるようで、どこか学校を敵のように思っている」と語られる。教員だった誠司は、スクールロイヤーは学校や教職員を守るものであると言い、健治は「迷惑をかけるな」とダメ出しされた。健治の中で、少年時代の嫌な記憶がよみがえった。

　自信をなくして泣く健治をたまたま見かけた珠々（堀田真由）。天文部のプラネタリウムで二人きりになり、手作りの宇宙を見上げる誠司と珠々の間で交わされる会話。星空の下というシチュエーションが饒舌にさせるのだろうか。ふだん口にしない感情が口をついて出る。健治の「あなたが普通で、あなたみたいな人ばかりなら、きっと世界はもっと良くなってるはずだ」「そういう普通なら好きです」は最大限の好意を伝えるものだが、よもやそれが愛の告白とは、今作を初めて観た人は気づかないかもしれない。

　たまりかねて、珠々が自分から「好きです」と言ってしまう程度には、健治の告白は真剣だったが、ムムスが発動しかけた健治は出て行ってしまい、そのことが珠々を誤解させることに……。

　率直に言って「このドラマは、健治と珠々をどうしたいのだろう」と疑問に思う部分もないではなかった。2人の仲が進展するとわかってからの展開も、やはりどこか現実離れしたファンタジー感が漂う。しかしそれは決して不快なものではなく、過酷な現実を生きる上で人として大事なものかもしれない。引退する高瀬（のせりん）の「宇宙がなくならない限り、永遠に空でつながってる」はさすがにちょっと大げさだけど、しっくり来ている自分もいて、今作の世界観が浸透していることを実感した。

　第9話の終盤にかけては、次々と突発事が起きる。濱ソラリス高校が置かれた窮状、生活指導の山田（平岩紙）の家族の事情、そして斎藤の身辺で起きたトラブル。現実は足元まで忍び寄っていて、気づくとそこは星のない空間だった。積もりに積もった問題がいちどきに噴出するのは、個人も組織も同じかもしれない。

　そんなのっぴきならないタイミングで、ふたたび健治と珠々の恋愛トークが挿入される今作のバランス感覚。実際問題、どんなトラブルの渦中でも星を見上げている間は、つかの間、現実から解放される。宮沢賢治に嫉妬しながら、健治は「あなたに会えたことは、僕の幸いです」と珠々に言うことができた。今度は大丈夫だろう。二人一緒に流れ星を見ることができたのだから。

　薬物事件に巻き込まれた斎藤が心配だし、次回予告でスクールロイヤーを辞めるという健治の台詞もあって、ややムムスになりつつ、今年も見納めに近づいた夏の大三角を眺めながら次週を待つとしよう。

■放送情報
『僕達はまだその星の校則を知らない』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週月曜22:00～放送
出演：磯村勇斗、堀田真由、平岩紙、市川実和子、日高由起刀、南琴奈、日向亘、中野有紗、月島琉衣、近藤華、越山敬達、菊地姫奈、のせりん、北里琉、栄莉弥、淵上泰史、許豊凡（INI）、坂井真紀、尾美としのり、木野花、光石研、稲垣吾郎
脚本：大森美香
音楽：Benjamin Bedoussac
主題歌：ヨルシカ「修羅」（Polydor Records）
監督：山口健人、高橋名月、稲留武
プロデューサー：岡光寛子（カンテレ）、白石裕菜（ホリプロ）
制作協力：ホリプロ
制作著作：カンテレ
©︎カンテレ
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