斎藤工、キャリアを重ねても揺るがぬ信念 「慢心せずに新しい現場に挑み続けたい」

テレビ朝日系で放送中の連続ドラマ『誘拐の日』は、心優しいがどこか間抜けな誘拐犯・新庄政宗(斎藤工)と、記憶を失った天才少女・七瀬凛(永尾柚乃)が、次々と襲いかかる危機を乗り越えながら“逃亡”と“犯人探し”を繰り広げる巻き込まれ型ヒューマンミステリー。重厚な人間ドラマとユーモラスな掛け合いが絶妙に絡み合い、物語は怒涛の展開を見せている。
さらなる盛り上がりを迎える中、主演の斎藤工に本作への思い、そして年齢やキャリアを重ねるなかで俳優/クリエイターの人間として今後どのようなことに向き合っていきたいのかを聞いた。
新庄政宗は“心の武装”を解いて挑んだ稀有な役柄
ーー斎藤さんがこれまで役者として演じられてきたキャラクターは、“大人の魅力を持つ男性像”が多かった印象です。今回演じられた“間抜けなおじさん誘拐犯”というキャラクターをどう受け止めましたか?
斎藤工(以下、斎藤):正直に言うと、企画をいただいたときに「これは僕が第1候補ではないだろうな」と思ったんです(笑)。新庄政宗というキャラクターを演じるなら、もっとコミカルな要素を自在に引き出せる、クセのある魅力を持った俳優さんが適任だと思っていました。
ーーオファーを受けたとき、挑戦してみようと思った決め手はなんだったのでしょうか?
斎藤:いわゆる“セクシーな男性像”といったイメージは、これまで携わってきた作品を支えてくださったヘアメイク、衣装、監督、照明といったスタッフの方々の力によって形作られた部分が大きかったのかもしれません。けれど今回のこの新庄政宗というキャラクターに関しては、その意識をまったく持たず、現場に入ることができました。言うなれば、撮影に臨むときの“心の武装”をすべて解いて挑むことができる稀有な役柄との出会いだったんです。
ーーオフィシャルコメントで「実は、プライベートの僕は新庄そのもの」とおっしゃっていたのも印象的でした。新庄に共感できた部分を教えてください。
斎藤:新庄を体現するにあたって、僕は“自分の普段の間抜けさを拾っていく”作業をしていて。というのも、人目の有無でその人のあり方というものは大いに変わるのではないかと思っています。人目を意識せずに、力を入れていない状態の自分でこの役を演じたら、フィクションなんだけど、ドキュメンタリーに近いものになるのではないかと思っています。
ーー韓国版のリメイクという形で始まった本作ですが、撮影を通して改めて感じた作品の魅力について聞かせてください。
斎藤:僕は韓国版と日本版、それぞれの良さが花開いている作品になっていると思います。特に、脚本を手がけた丑尾(健太郎)さんには物語をエンターテインメントへと昇華する才能があります。そして永尾柚乃さんが演じる凛というキャラクターは、まさに彼女だからこそ意味を持つ存在になっていて、その魅力が最大限に活かされる脚本になっているんです。
ーー永尾さんの存在感は撮影現場でも大きいのでしょうか?
斎藤:彼女の「今」を切り取った芝居に、大人たちが翻弄されていくんです。僕が演じる新庄もそうですが、彼女が物語の中心で渦を巻き起こし、そこに巻き込まれていく心地良さがある。作品にはミステリーやコメディーの要素もありますが、その流れに身を任せるように鑑賞できる心地良さがあると思います。韓国版では11歳、日本版では8歳と年齢設定も異なっていて、その渦の源となる存在の違いも興味深いポイントです。実際に僕自身も現場で柚乃さんに翻弄される感覚を味わいましたし、完成した映像を観ても同じ感覚を強く覚えました。大人が本来は子どもを支える立場であるはずなのに、逆に“支えてもらっている”ように思える。そこには現代のリアルな人間関係の構造が映し出されている気がしました。
「作品というのは常に“点”で見られるもの」
ーー斎藤さんは監督としてもご活躍されていますが、クリエイターの視点から本作のテーマをどのように捉えていますか?
斎藤:本作には「血縁だけが家族ではない」というテーマも込められています。僕自身、2024年に映画『大きな家』というドキュメンタリーを制作した際に、「誰とどう時間を過ごすか」の価値こそが本質だと強く感じました。その確信が、この作品を通じてさらに深まったと思っています。本作は“何も考えずに楽しめるエンターテインメント”でありながら、同時に観た人が「自分にとって本当に大切な存在は誰なのか」と考えるきっかけになる。大げさではなく、人間という存在が他者を思うことで輝けることを知れる作品になっているのではないかと思っています。
ーー“天才少女”凛とバディを組む新庄ですが、斎藤さんご自身が「これは自分の特技だ」と思うものはありますか?
斎藤:先日、Netflixシリーズ『アドレセンス』という、1話まるごとワンショットで撮影された大傑作に出会ったんです。全5話なので、カット数はたったの5つだけ。ワンショットの演出という意味で映画『ボイリング・ポイント/沸騰』に似ているなと思ったら、製作陣が同じだったんです。天才とはまた違うくくりだとは思いますが、作品を読み解く力なのか、「ワンショットブームはこの作品から始まったのかもしれない」といった、映像作品における“答え合わせ”的な発見をすることは多々あります。
ーー年齢やキャリアを重ねる中で、これまでとは異なる役柄にも挑まれています。俳優として、そしてクリエイターとして、これからどんなことに向き合っていきたいと考えていますか?
斎藤:観客の方々、そして自分自身もそうなのですが、作品というのは常に“点”で見られるものだと思っています。その俳優がどんな経歴や情報を持っていても、出会ったその一作が良いか悪いかで判断される。むしろそうあるべきだと感じているんです。以前、とある舞台挨拶で「今回はこういう役に挑戦しました」と説明することに違和感を覚える、と口にしたことがあったのですが(笑)、“これまでの自分を知っている前提”で目の前の観客に話すのは少し違うのではないかと僕は考えています。いまはストリーミングの時代で、日本の作品が国境を越えて世界に届くことも当たり前になってきました。この『誘拐の日』も、海外の観客に観てもらえる可能性がある。そうしたときに「これまでの活動を知っている人にどう見せるか」ではなく、「今回の作品で初めて自分を知ってくれる人」を最優先に考えることが大切だと思っています。キャリアを積んだからこそ「幅を見せる」ことに意識が向きがちですが、そこでおごりや過信が生まれてしまえば、自分はきっとダメになる。だからこそ常に“褌を締め直す”気持ちで、慢心せずに新しい現場に挑み続けたい。それがこれからの自分の挑戦なのだと思っています。
韓国のスタジオ・ASTORYが2023年に製作した連続ドラマを原作としたヒューマンミステリー。心やさしきマヌケな誘拐犯と記憶喪失の天才少女が異色タッグを結成し、次々と襲いかかる危機を乗りこえながら犯人捜し&逃亡劇を繰り広げる。
■放送情報
『誘拐の日』
テレビ朝日系にて、毎週金曜21:00〜21:54放送
出演:斎藤工、永尾柚乃、深澤辰哉、江口洋介、内田有紀、安達祐実、鈴木浩介、長谷川初範、望海風斗、佐藤寛太
原作:『誘拐の日』©ASTORY & KT Studiogenie/脚本 キム・ジェヨン
脚本:丑尾健太郎
監督:深川栄洋、片山修
音楽:長岡成貢
主題歌:yama「us」
ゼネラルプロデューサー:大江達樹(テレビ朝日)
プロデューサー:峰島あゆみ(テレビ朝日)、菊池誠(アズバーズ)
制作協力:アズバーズ
©︎テレビ朝日
公式サイト:https://www.tv-asahi.co.jp/yuukainohi/
公式X(旧Twitter):https://x.com/yuukainohi_ex
公式Instagram:https://www.instagram.com/yuukainohi_ex/
公式TikTok:https://www.tiktok.com/@yuukainohi_ex



























