『奪い愛、真夏』安田顕が生む濃厚な人間ドラマ “怪優”としての幅を示した一人二役の妙

特に際立つのは、狂気と哀愁を同時に体現できる点にある。狂気だけでは突飛に映り、哀愁だけでは弱々しく見えてしまう。だが安田は、その二つを同じ眼差しの中に共存させる。NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』での平賀源内役がそうであったように、孤独を抱えた人間の悲哀と、常識から逸脱した危うさを一つの人物の中で矛盾なく表現できる。その資質が、『奪い愛、真夏』の二役を成立させた根幹にあるのではないかと筆者は感じている。

松本まりかとの共演も、安田の魅力を際立たせる要素となった。松本は「安田さんと一緒にやったときに初めて腑に落ちた。感情が自然に動き、本当の気持ちが引き出される。もう楽しくてしょうがない」と語っている(※)。相手役から本音を引き出す力を持つ俳優は限られているが、安田は現場の空気を動かし、共演者と“生きた芝居”を生み出すことができる。予定調和を超えた演技が、作品全体を鮮やかに呼吸させているのだ。

第6話では、未来と時夢(安田顕)の夫婦、真夏と日熊(白濱亜嵐)の二組による“地獄のWデート”が描かれる予定だ。四人が同じ食卓を囲むという設定は、常識的に考えれば滑稽にも見えかねない。だが、安田がこれまで培ってきた抑制と誠実さを軸にした演技がどう作用するのか。そこに視線や呼吸のわずかな変化を織り込むことで、単なるコントではなく人間ドラマへと昇華する可能性がある。

さらにその後には、死んだはずの隼人が登場するという衝撃的な展開が控えている。時夢と隼人という二役をどう対比させるのか、そのコントラストは今作における安田の真価を決定づけるだろう。あらすじの段階からして観客に強烈な期待を抱かせる回であることは間違いない。
結局のところ、『奪い愛、真夏』が突飛なラブストーリーに見えながらも、濃厚な人間ドラマとして成立しているのは明らかだ。その中心にいるのが安田顕である。彼は単なる役者ではなく、その存在そのものが作品の空気を形づくり、観客に思いもよらない感情を呼び起こす。まさに“怪優”という言葉がふさわしい表現者だ。
参照
※https://realsound.jp/movie/2025/07/post-2102274.html
さまざまな登場人物たちが愛を奪い合う“激しくも切ないドロキュン恋愛ドラマ”『奪い愛』シリーズの最新作。結婚までも約束した最愛の恋人と不倫の末に別れた主人公の恋模様を描く。
■放送情報
金曜ナイトドラマ『奪い愛、真夏』
テレビ朝日系にて、毎週金曜23:15~24:15放送
出演:松本まりか、安田顕、高橋メアリージュン、森香澄、白濱亜嵐、石井正則、石山順征、谷原七音、水野美紀
脚本:鈴木おさむ
演出:樹下直美、上田迅
ゼネラルプロデューサー:横地郁英(テレビ朝日)
プロデューサー:川島誠史(テレビ朝日)、神通勉(MMJ)、小路美智子(MMJ)
音楽:沢田完
主題歌:安田レイ「BROKEN GLASS」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
制作:テレビ朝日、MMJ
©テレビ朝日
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