『隣のステラ』は幼なじみラブコメの傑作 福本莉子×八木勇征の繊細な“距離感”を映像で演出

華麗なタイトル回収

千明を主体に進められてきた物語が昴の内面に入りこむと、劇場に流れる空気は一変した。冒頭、昴との日々のかがやきを語った千明のモノローグの背景に流れていた写真の数々はじつは昴が撮影したことが明かされ、この恋が千明から昴への片想いではなく、両片想いであったことが明らかになる。お決まりのハッピーエンドまでの道のりを歩く観客としてこの展開に驚くことはないが、華麗なタイトル回収には意表を突かれた。本作のタイトルロールには『隣のステラ』ではなく英題の「Stella Next to Me」が用いられている。この「Me」とは千明だけでなく昴をも意味するのだということは、この千明から昴へと切り替えられた語りを通じて巧妙に提示される。自己を表す代名詞が男女どちらかを想起させがちな日本語を使わず、英語の「Me」にふたりを託すことで、昴の内心が開示される場面のカタルシスは高められている。

つまり一方的に想いを寄せていた別世界に住む「わたしの隣のステラ」は、わたしを「隣のステラ」としてまなざし、好いていてくれていたのだということだ。わたしが“隣”だと思っている相手も、同じようにわたしを“隣”にいる者として見つめているというあたりまえの可能性は、時に見えなくなくなってしまうことがある。そういう部分的な鈍感によるもどかしさはなにも千明と昴だけの話ではなく、日常にしみこんだちょっとしたささくれとして身に覚えのあるひともいるかもしれない。あなたにとっての「隣のステラ」はあなたのことを「隣のステラ」だと思っているかもしれないという予感の祝福を、観客全員に咲きこぼしてくれるのがこの『隣のステラ』という映画であった。
千明と昴の将来
無事結ばれた彼らだったが、とはいえ芸能人と一般人の恋愛である、多くの課題や障害が待ち受けていることは想像に難くない。劇中彼らを襲ったスキャンダルのような問題がこの比ではない大きさで襲ってくる日もあるかもしれない。しかし千明と昴ならば大丈夫だと安心できる自分がいた。近くて遠い“隣”という距離を、物理的に部屋のあいだを飛び越えることによって克服した彼らならどんな難題もこなしてゆけるだろう、そう信じられる。自室の窓を飛び出し千明の部屋へと着地する昴の飄々とした飛び姿が、これからのふたりを象徴するイメージとして脳裏に焼きついて離れない。
■公開情報
『隣のステラ』
全国公開中
出演:福本莉子、八木勇征、倉悠貴、横田真悠、西垣匠、田鍋梨々花、清水美砂、宮崎吐夢、紺野まひる、野波麻帆、浜野謙太
原作:餡蜜『隣のステラ』(講談社『別冊フレンド』連載)
監督:松本花奈
脚本:川滿佐和子
制作:オフィスクレッシェンド
配給:東宝
©2025映画「隣のステラ」製作委員会
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