“汚い高音”を制した下野紘 大きなインパクト残した『鬼滅の刃 無限城編』善逸戦を深掘り

そもそも、善逸という役は下野紘のキャリアにおける集大成とも呼べる存在だ。
『うたの☆プリンスさまっ♪』の来栖翔や『進撃の巨人』のコニー・スプリンガーといった明るく弟分的な役柄は、下野の十八番として長く愛されている。一方で、『僕のヒーローアカデミア』の荼毘や『東京リベンジャーズ』の灰谷竜胆のような、ダークなキャラクターを通して積み上げてきた緊張感もまた確かな財産だ。
その両極を自在に行き来できるからこそ、善逸というキャラクターの「振れ幅」は余すところなく表現されたのだろう。さらに近作では『えぶりでいほすと』のコーイチのように、ユーモラスでありながら強烈な印象を残す役柄も演じ切る。コミカルさもある善逸というキャラクターは、“下野紘”という声優のさまざまな顔を一度に味わわせてくれる贅沢な存在なのかもしれない。

その真価が鮮烈に現れたのが、兄弟子である獪岳との対峙のシーンだ。細谷佳正との迫真の掛け合いは圧倒的で、善逸が「介錯もつけずに腹切って死んだじいちゃん」の話を持ち出す一連のシーンや「俺がカスなら、あんたはクズだ」と怒りをにじませた一言の重み。
そして、雷の呼吸・漆ノ型〈炎雷神〉を放ったあとの「この技でいつかアンタと肩を並べて戦いたかった……」という切実な台詞には、互いを嫌いながらも善逸が獪岳に抱いていた尊敬の念と、もう決して叶うことのない思いが重なり合い、深い切なさが滲んでいた。
そしてクライマックスを飾ったのが、三途の川での師・慈悟郎との涙の再会である。
「ごめん俺、獪岳と仲良くできなかった! 手紙書いたりもしてたんだ! でも返事してくれなくて」と必死に訴える善逸の声には、積み重ねてきた想いと後悔がにじんでいた。その直後の、慈悟郎役・千葉繁の「お前は儂の誇りじゃ」という言葉には、客席から啜り泣きの声が広がっていった会場も多かったのではないか。

興行収入257億円突破という記録は確かに輝かしいものだが、この作品の真価は数字の向こう側にある。『無限城編 第一章』を観終えたとき、スクリーンから響く一つひとつの台詞に、プロフェッショナルとしての仕事を存分に見せてくれた声優たちへ敬意を抱かずにはいられない。
特に善逸においては、その成長と共に積み重ねられてきた6年という歳月が、本作で結実したと言っても過言ではないだろう。
アニメーションは総合芸術だとよく言われるが、ここまで映像や音楽、そして声の力が響き合う一体感を感じられる作品は決して多くない。下野紘が演じる善逸の「変化」を存分に味わえたこの夏、多くの観客が改めて声の力というものを実感したのではないだろうか。
■公開情報
『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』
全国公開中
キャスト:花江夏樹(竈門炭治郎役)、鬼頭明里(竈門禰󠄀豆子役)、下野紘(我妻善逸役)、松岡禎丞(嘴平伊之助役)、上田麗奈(栗花落カナヲ役)、岡本信彦(不死川玄弥役)、櫻井孝宏(冨岡義勇役)、小西克幸(宇髄天元役)、河西健吾(時透無一郎役)、早見沙織(胡蝶しのぶ役)、花澤香菜(甘露寺蜜璃役)、鈴村健一(伊黒小芭内役)、関智一(不死川実弥役)、杉田智和(悲鳴嶼行冥役)、石田彰(猗窩座役)
原作:吾峠呼世晴(集英社ジャンプ コミックス刊)
監督:外崎春雄
キャラクターデザイン・総作画監督:松島晃
脚本制作:ufotable
サブキャラクターデザイン:佐藤美幸、梶山庸子、菊池美花
プロップデザイン:小山将治
美術監督:矢中勝、樺澤侑里
美術監修:衛藤功二
撮影監督:寺尾優一
3D監督:西脇一樹
色彩設計:大前祐子
編集:神野学
音楽:梶浦由記、椎名豪
主題歌:Aimer「太陽が昇らない世界」(SACRA MUSIC / Sony Music Labels Inc.)・LiSA「残酷な夜に輝け」 (SACRA MUSIC / Sony Music Labels Inc.)
総監督:近藤光
アニメーション制作:ufotable
配給:東宝・アニプレックス
©︎吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
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