『あんぱん』が向き合った“反戦”と“軍国主義” 戦後80年に描かれる戦争の恐ろしさ

戦後80年を迎える2025年。終戦の日を前にして、原子爆弾が投下された広島県と長崎県では、原爆死没者に対する追悼と平和への祈りが捧げられた。
しかし、平和公園で行われた平和式典で広島県の湯崎知事は「法と外交を基軸とする国際秩序は様変わりし、剥き出しの暴力が支配する世界へと変わりつつあり、私たちは今、この繁栄がいかに脆弱なものであるかを痛感しています」と述べている。今、世界のそこかしこで鳴り響いている戦争の足音は、今、私たちが目を背けてはならない現実でもある。

そんな戦後80年の節目に放送されているNHK連続テレビ小説『あんぱん』では、長い時間をかけて戦中から戦後にいたるまで、激動に揺れる日本の情勢が描かれてきた。その中心にいたのは、戦時下の抑圧された日本に息苦しさを覚えながら、戦争の前線で起こる食糧難や飢餓を経験した嵩(北村匠海)と、軍国主義の高まりとともに愛国思想に染まっていくのぶ(今田美桜)のふたりだ。
これまでも多くの朝ドラでは、戦争による分断と喪失を克明に映し出してきた歴史がある。昨年放送された『虎に翼』(2024年度前期)の第40話で、幸せの真っ只中にいた優三(仲野太賀)が寅子(伊藤沙莉)に見送られて出征する場面は、今も多くの人の脳裏に焼きついている光景だろう。

しかし、戦中戦後の日本に生きる人々の価値観の変容を、ここまでストーリーに反映させた朝ドラはあっただろうか。「戦争が大っ嫌いです」と口にして戦地へ赴いた嵩と、戦争を肯定することに迷いを感じながらも、子どもたちにはお国のために奉公するよう教えを説いたのぶ。特に本作は正反対な主人公ふたりの視点から、加熱する軍国主義の圧力と戦争が反転させる正義の在り方を描いているところが稀有な点である。
日中戦争が勃発して以降、国に扇動されて高揚していく民衆の熱狂が渦巻く日本において、『あんぱん』では多くのキャラクターが戦争を否定してきた。




















