『鬼滅の刃』はなぜ“きょうだい愛”が重要? 幸せな家族から疎外された“子どもたち”の戦い

『鬼滅の刃』はなぜ“きょうだい愛”が重要?

 竈門兄妹や胡蝶姉妹は、鬼によって家族を奪われた過去をもち、“唯一の家族”として支え合いながら生きていた。時透兄弟の親は病死と事故死なので少々事情が異なるものの、孤児という点では同じ運命を辿っている。

 その一方で、そもそも円満な家庭ではなかったという登場人物も多い。不死川兄弟は鬼によって両親を奪われたが、元々父親がろくでもない性格で、母親や子どもたちに暴力を振るっていたことが明かされている。

 また栗花落カナヲは、生みの親から壮絶な虐待を受けていた過去をもつ。感情の一切を失って人形のようになり、人買いに売られていたところをしのぶたちに救われたのだった。

 遊郭の最下層に生まれた妓夫太郎は母親に疎まれ、生まれる前も生まれた後も何度も殺されそうになり、『鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊見聞録・弐』では妹の堕姫も母親から暴力を受けていたことが明かされている。

 すなわち、家庭が上手く機能していなかった「機能不全家族」をめぐる話こそが『鬼滅の刃』の1つの主題だと考えられる。そこで描かれているのは、家庭に居場所を持つことができなかった子どもたちがお互いを支え合い、過酷な世界を生き延びていく姿だ。いわばそれを象徴するのが、「親がいない兄弟や姉妹」という関係性なのではないだろうか。

 恋愛や友情のように誰かと入れ替え可能なものではなく、絶対的な“自分の居場所”となる絆。ただし、そこには必ずしも血のつながりは必要なく、疑似的な家族として描かれることもある。胡蝶姉妹とカナヲの関係、善逸と獪岳の関係などはその典型だろう。さらに言えば、お館様のもとで結束して戦う鬼殺隊自体が“家族の代わり”という面があったようにも思われる。

 つい先日には、いわゆる“毒親”問題をこれまでにない解像度で扱ったマンガ『タコピーの原罪』がアニメ化され、大きな話題を呼んだばかり。『鬼滅の刃』の大ヒットも、同様の背景から理解することができるかもしれない。

 自分の居場所を求める子どもたちの戦いは、まだまだ終わらない。『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』第二章以降で、このテーマがどのように変奏されるのか注目したい。

■公開情報
『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』
全国公開中
キャスト:花江夏樹(竈門炭治郎役)、鬼頭明里(竈門禰󠄀豆子役)、下野紘(我妻善逸役)、松岡禎丞(嘴平伊之助役)、上田麗奈(栗花落カナヲ役)、岡本信彦(不死川玄弥役)、櫻井孝宏(冨岡義勇役)、小西克幸(宇髄天元役)、河西健吾(時透無一郎役)、早見沙織(胡蝶しのぶ役)、花澤香菜(甘露寺蜜璃役)、鈴村健一(伊黒小芭内役)、関智一(不死川実弥役)、杉田智和(悲鳴嶼行冥役)、石田彰(猗窩座役)
原作:吾峠呼世晴(集英社ジャンプ コミックス刊)
監督:外崎春雄
キャラクターデザイン・総作画監督:松島晃
脚本制作:ufotable
サブキャラクターデザイン:佐藤美幸、梶山庸子、菊池美花
プロップデザイン:小山将治
美術監督:矢中勝、樺澤侑里
美術監修:衛藤功二
撮影監督:寺尾優一
3D監督:西脇一樹
色彩設計:大前祐子
編集:神野学
音楽:梶浦由記、椎名豪
主題歌:Aimer「太陽が昇らない世界」(SACRA MUSIC / Sony Music Labels Inc.)・LiSA「残酷な夜に輝け」 (SACRA MUSIC / Sony Music Labels Inc.)
総監督:近藤光
アニメーション制作:ufotable
配給:東宝・アニプレックス
©︎吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
IMAX® is a registered trademark of IMAX Corporation.
公式サイト:https://kimetsu.com/anime/mugenjyohen_movie/
公式X(旧Twitter):@kimetsu_off

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