『べらぼう』生田斗真演じる一橋治済は“敗北”するのか “悪行”の整理と最期を考察

そこで期待したいのが、もうひとつのシナリオである。『べらぼう』はこれまでも、史実を基にしながら巧みな創作要素を加えることで、視聴者により分かりやすく、より感情移入しやすい物語を紡いできた。「丈右衛門だった男」という架空の人物を登場させ、複雑な政治的陰謀を具現化したのもその一例だ。だからこそ、治済の結末においても、史実の「社会的勝利」は維持しつつ、内面的な「敗北」を描く可能性があるのではないか。
治済は確かに社会的には勝者として君臨し続ける。しかし、真の意味での「勝利」を得られないという描き方だ。たとえば、息子・家斉との関係性である。父の陰謀によって将軍になった家斉は、次第に父を疎んじるようになるかもしれない。あるいは、すべてを手に入れたはずの治済が、最後に孤独な老人として描かれる可能性もある。広大な屋敷の中で、誰からも愛されず、ただ権力にしがみつくだけの存在として。

第26回で歌麿(染谷将太)が「生まれ変わるなら女がいいからさ」と呟いたように、治済にも何か「叶わなかった想い」があるのかもしれない。陰謀でしか自己実現できなかった男の、深い闇と虚無。それが最期に浮かび上がるような演出を期待したい。
『べらぼう』は、蔦屋重三郎という庶民の視点から見た江戸時代を描いている。そこには、権力に翻弄されながらも、文化の力で時代を切り開いていく人々の姿がある。一橋治済は、その対極に位置する存在だ。だからこそ治済の結末は、単純な「悪は滅びる」という勧善懲悪では終わらないだろう。権力の怪物が最後まで生き残る現実の残酷さと、それでも文化が歴史に残っていく希望、その両者が描かれることが考えられる。
治済が画面に登場するたび「また出た」と言われる存在から、最後にどのような「退場」を見せるのか。
■放送情報
大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送/翌週土曜13:05~再放送
NHK BSにて、毎週日曜18:00~放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15~放送/毎週日曜18:00~再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK






















