『べらぼう』や『光る君へ』で話題の“呪術監修”とは? 呪いのプロたちが防ぐ“効力”

魔法を発動させて強大なモンスターを撃退する。呪文を唱えて怨霊や妖怪を祓い鎮める。ファンタジーや伝奇物のTVドラマや映画やアニメに出てきて、カッコいいと思わせるシーンだ。呪詛によって晴らせぬ恨みを晴らそうとするシーンも弱くて力を持たない者に勇気を与えてくれるが、こうした呪文や魔法を現実の世界でカッコいいから、誰かを呪いたいからと使われてはたまらない。そこで注目されるのが、魔術や呪術をカッコよく見せつつ災厄が起こらないように考証する人たちの存在だ。
NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』で7月27日に放送された第28回「佐野世直大明神」に、福原遥演じる花魁の誰袖が呪文を唱えながら藁人形を短刀で何度も突き刺すシーンが登場し、ゴールデンタイムのドラマには珍しい猟奇さが話題になった。大河ドラマでは、2024年の『光る君へ』でも、第14回「星落ちてなお」に瀧内公美演じる源明子が祭壇の扇に向かって呪詛をぶつけるシーンが登場し、煌びやかな平安朝のドロドロとした裏側を見せてくれた。三浦翔平が演じた藤原伊周の呪詛シーンも何度も登場し、常軌を逸した行動も話題となった。
『光る君へ』でも話題の“呪詛”、実際はどうだった? 陰陽師の中に存在した明確なカースト
大河ドラマ『光る君へ』(NHK総合)第38回「まぶしき闇」にて、藤原伊周が藤原道長(柄本佑)に呪詛をかけるシーンが話題を呼んだ。…この『べらぼう』と『光る君へ』で呪文や陰陽道の指導に当たったのが、陰陽道の研究などで知られる高橋圭也だ。どちらもそれらしい雰囲気が作り上げられ、そこに福原や瀧内、三浦の迫真の演技が合わさり、恨みの深さと呪いの恐ろしさを見る人に感じさせた。ただし、ここで描かれた呪詛が本当に効果があるものでは、「人を呪わば穴二つ」の言葉どおりに演じた人たちに害が及びかねない。見た人が真似をして被害者が出ないとも限らない。
そこで高橋は、『べらぼう』では「誰袖の呪文は(何万回唱えても)全く効果が出ないように加工しているものを使用した」(※)という。これによって迫真のシーンを他に類が及ばない形で作り上げ、平安時代でも江戸時代でも権力を持たない者たちが、晴らせない恨みを命がけの呪詛によって晴らそうとしていたことを描いて、見る人に共感を抱かせた。

リアリティーをしっかりと感じさせ、時にはケレン味も加えて見る人を引き込みつつ、効果については影響が出ないように配慮する。そうしたノウハウを、アニメやドラマや映画、そして小説やゲームといったフィクションの世界で呪文や魔法を効果的に使うために求められている人たちがいる。高橋圭也もそのひとり。そして作家の加門七海も、呪術や民俗学の知識を活かして、夢枕獏の人気シリーズを佐藤嗣麻子監督が映画化した『陰陽師0』(2024年)で呪術監修を担当し、カッコよくて雰囲気にもマッチした陰陽バトルを作り出した。
『陰陽師0』のパンフレットで、「研究者の方ではなく私にできることとして、厳密さよりもカッコ良さを優先しました」と答えている加門。撮影日誌によれば、「六つの場面で使われる呪文と印、御札を加門が作成。古文書の類や、現在も活動している中国の道教の呪禁師による呪術動画などを参考に、アレンジを加えて本作オリジナルの呪術を完成させた」そうだ。
金龍を封印する呪文では、「道教の《清浄咒》をもとに和訳も交えて、女王の清らかな願いを優しく導く呪文をつくりました」。水龍を召喚する呪文については、「作品のひとつの要となる呪文のため、実際に行われた陰陽道の祭祀《三万六千神祭》より、龍に関する部分を抜粋してアレンジ」したという。
陰陽師が登場する作品では、「急急如律令」という呪文がよく登場する。呪文やお札の効果が速やかに発揮されるよう促す言葉だが、『陰陽師0』では扉の封印符を使う場面で、「急いで力を発動させなければならない」状況から「《急急如律令》より即応性のあるもの」として、《神兵火急如律令 行!》という呪文を使わせた。





















