いま再考したい『サマーウォーズ』の先進性 仮想空間に込められた細田守の“希望”を紐解く

いま再考したい『サマーウォーズ』の先進性

仮想空間は、恐れではなく希望の場所

 学習型AIプログラム「ラブマシーン」によってOZが乗っ取られ、現実世界にも軋みが生じるというストーリーは、一見すると、現実と仮想空間は対比されうるものであり、相反する世界であると捉えられかねない。だがおそらく細田守監督自身は、仮想空間は現実と地続きにあるものと捉えており、恐れではなく希望を抱いているはずだ。

 『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』(2000年)ではデジタルワールド、『竜とそばかすの姫』(2021年)では〈U〉と、細田守は自作のなかで繰り返し仮想空間を描き続けてきた。『時をかける少女』(2006年)で真琴がタイムリープする過去も、『バケモノの子』(2015年)に登場するバケモノの世界「渋天街」も、『未来のミライ』(2018年)でくんちゃんが遭遇する過去と未来も、いまこの瞬間の現実ではない世界=仮想空間の変奏とも考えられる。

 細田アニメの少年/少女たちは、不思議の国に迷い込んで、戦い、自分自身を見つめ、発見していく。古いオトナたちによって築き上げられた現実社会よりも、仮想空間は成長の舞台としてはるかにふさわしい。「インターネットは若者のものであるというイメージを持っている。インターネットはいつの時代も、若い世代が主体的によりよい世界を創っていくフレッシュな場所であってほしい」(※2)という発言からも、彼のインターネット観が伺える。

 では、AIはどうだろうか。『サマーウォーズ』では、「ラブマシーン」と陣内家の人々との“ひと夏の戦争”が描かれる。暴走したAIと対峙する人類というモチーフは、これまで多くのSF小説や映画で繰り返し使われてきたテーマだ。

 古くは、宇宙船ディスカバリー号に搭載されていた人工知能HAL9000型コンピュータが暴走する『2001年宇宙の旅』(1968年)。冷戦時代に作られた軍事AIが、核戦争を引き起こそうとする『ウォー・ゲーム』(1983年)。自我に目覚めたAIのスカイネットが、人類を滅ぼそうとする『ターミネーター』(1984年)。人類を守るために作られたAI「ウルトロン」が、人類こそが脅威であると判断する『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015年)。我らがトム・クルーズが、AIプログラム「エンティティ」と戦う『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』(2023年)、『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』(2025年)も、この系譜に入ることだろう。

 しかし細田守は、AIが人類を滅ぼす災厄の神であるとは認識していないのではないか。「暴走したAI」という古典的なモチーフは、少年/少女の成長を促すために導入されたに過ぎない。細田守にとっては仮想空間もAIも、この世界のすぐそばにある、もうひとつの現実なのだ。

 同時に細田守は、現実世界の素晴らしさも巧みに表現してみせる。それは、“手”だ。山下達郎の主題歌『僕らの夏の夢』で“手と手を固く結んだら”という一節があるように、ラストクレジットで映し出されるのは、健二と夏希が手を握り合っているバックショット。手を繋ぎ、体温を感じることで、大切な人の気持ちを確かめ合う。バーチャルでは味わうことのできない皮膚感覚。この映画では、仮想空間で主人公たちが成長し、現実で手と手を固く結ぶ。

 スティーヴン・スピルバーグが『レディ・プレイヤー1』(2018年)で示した10年も前に、細田守は『サマーウォーズ』で2つの世界を肯定してみせていた。この映画の先進性は、OZやAIのリアリティではなく、その思想に表れている。

参照
※1. https://www.animatetimes.com/news/details.php?id=1241742629
※2. https://bizgate.nikkei.com/article/DGXZQOCD172DX017012023000000

■放送情報
『サマーウォーズ』
日本テレビ系『金曜ロードショー』にて、8月1日(金)21:00~22:54放送
声の出演:神木隆之介、宮内ひとみ(旧芸名:桜庭ななみ)、斎藤歩、谷村美月、富司純子
監督・原作:細田守
脚本:奥寺佐渡子
キャラクターデザイン:貞本義行
作画監督:青山浩行
美術監督:武重洋二
CGディレクター:堀部 亮
色彩設計:鎌田千賀子
©2009 SW F.P.

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