いま再考したい『サマーウォーズ』の先進性 仮想空間に込められた細田守の“希望”を紐解く

8月1日に『金曜ロードショー』(日本テレビ系)で『サマーウォーズ』(2009年)が放送される。今やアニメーション界の巨匠となった細田守監督の、言わずと知れた代表作だ。
内気な高校生の健二が、ひょんなことから憧れの先輩・夏希の実家で大家族の夏を過ごすことに。やがて、携帯電話に届いた数学パズルを解いてしまったことが原因で、仮想世界OZを乗っ取るAI「ラブマシーン」が暴走。現実世界にも混乱が広がる。陣内家の人々は一致団結し、家族の絆と知恵を武器に世界を救う戦いに挑んでいく……。

本作が劇場公開された2009年は、テクノロジーの分野で大きな転換期を迎えた年だった。デジタル通貨ビットコインの運用がスタート。日本発の仮想空間サービス「アメーバピグ」がリリース。Twitter(現X)やFacebookなどのSNSが利用者を拡大。前年から日本で販売が開始されていたiPhoneがさらに普及し、同時にAndroidを搭載した携帯電話も台頭し始め、スマートフォンの時代が本格的に幕を開ける。
情報を一方的に受け取るだけの「Web 1.0」から、SNSやブログを通じて双方向のコミュニケーションが可能な「Web 2.0」へ。IT(Information Technology=情報技術)のあり方、そして社会のあり方が様変わりする節目に、『サマーウォーズ』という作品は生み出されたのである。
細田守監督は、仮想世界OZの世界観を構築するにあたって、任天堂のアバターMii(ミー)と、SNSのmixiを参考にしたと語っている(※1)。2025年現在から見ればだいぶレガシーなサービスだが、実際に映画を観てみると、仮想世界OZの設定自体に古さは感じられない。むしろ、OZでショッピングしたり、住民登録やパスポート発行といった行政サービスが受けられたりする設定は、e-Taxやマイナンバー制度が普及した今のほうがリアリティを感じられる。

OZのコンセプト・メイキングに、リンデンラボ社からリリースされた仮想空間「セカンドライフ」がおおいに役立ったことは間違いない。2003年にリリースされたこのサービスは、いま改めて見直しても非常に画期的だった。世界中の人々がアバターを通じて出会い、チャットやボイスチャットで交流し、イベントを開催したり、グループを結成したり。ここでは、現実世界さながらの社会活動が行われていた。仮想空間内のほぼすべてのコンテンツ(アバター、建物、オブジェクト、風景など)を制作し、それを配置・利用することができたことも、革新的。開発者が用意したコンテンツを消費するだけでなく、創造する自由が与えられていたのである。

リンデンドル(L$)と呼ばれる独自の仮想通貨も流通していた。ユーザーは、自分で制作したアイテムやサービスを販売することでリンデンドルを獲得し、それを現実世界の通貨(米ドル)と換金することができる。仮想空間内での経済活動が現実にリンクするという先進的な仕組みは、多くのバーチャル起業家を生み出した。
ソニー、IBM、トヨタ、アディダス、スターバックス、ソフトバンクモバイルといった大手企業が早期から仮想店舗を出店し、新しいビジネスの可能性を模索してきた実績もある。セカンドライフが築いたこの基盤は、現代のデジタルビジネスの発展において、確実に重要な礎となっている。
Facebookが社名をMetaに変更し、メタバースに注力した2022年は「メタバース元年」と呼ばれている。だがその20年前には、先駆けといえる仮想空間サービスがすでに存在していた。OZのような世界は、『サマーウォーズ』制作時点で現実のものだったのである。




















