『あんぱん』今田美桜×北村匠海から溢れる多幸感 「幸せにしたいから」に詰まった嵩の覚悟

『あんぱん』のぶと嵩から溢れる多幸感

 久しぶりに、心から胸を打たれるプロポーズを観た。NHK連続テレビ小説『あんぱん』第88話で描かれた嵩(北村匠海)のまっすぐな告白には、ただ愛の言葉を伝えるだけではない優しさと覚悟があった。何度もすれ違い、迷い、言葉を探し続けてきた2人が、ようやく一歩を踏み出したその瞬間には、長い時間をかけて育んだ想いが、ようやくかたちになった実感があった。

 そして迎えた第89話。年が明け、時は昭和23年。のぶ(今田美桜)と嵩は、長く身を寄せてきた長屋を離れ、新しい暮らしへと歩き出す。別れの場面ではアキラ(番家玖太)たちが涙をこらえながら送り出してくれる。あの場所に宿っていた温かさが、のぶと嵩の背中をそっと押していた。

 2人が引っ越してきたのは、中目黒にあるオンボロな長屋。共同の手洗い場の天井には穴が空き、初日から嵩は雨に打たれて帰ってくる。びしょ濡れになった嵩の髪を、のぶが笑いながらタオルで拭いてあげる。そんな何気ない時間こそが、2人にとっての幸せの輪郭を描いているように思えた。どれだけ家が古かろうと、不便であろうと、笑い合える相手がいる空間こそが、何にも代えがたい居場所になる。ようやく辿り着いたこの関係は、観ているこちらにもじんわりと沁みてくる。

 そんな矢先、世良(木原勝利)がのぶのもとを訪ねてくる。先生が地方の挨拶回りで不在のため、しばらく事務所に泊まり込んで電話番を頼みたいという。せっかくの新居での時間が始まったばかりだが、のぶは仕事を引き受け、ふたりはまた少しの間離れて暮らすことになる。

 そこに届いたのは、羽多子(江口のりこ)からの手紙。東京に行くという知らせに、朝田家の4人が揃って中目黒の部屋に押しかけてくる。そこで嵩は八木(妻夫木聡)の家に身を寄せることに。そこで交わされた、嵩と八木の静かな会話が印象深い。「漫画を描かないのか?」と問う八木に、嵩は「描きます」と少し迷いながらも答える。そして、なぜ就職したのかと尋ねられた嵩は、「のぶを幸せにしたいから」と言い切る。その言葉にハッとさせられた。夢を追う自分と、誰かを幸せにしたいという自分。その2つは、相反するものではなく、どちらも嵩の中にある真実なのだ。嵩は今、漫画家としての夢よりも先に、夫として誰かを支えたいという願いを選んでいる。その一歩は、きっと彼自身の中にあった未熟さや葛藤を経て生まれた誠実な覚悟なのだと思う。

 ある日、嵩の勤め先に羽多子から緊急の電話が入る。深刻な面持ちでのぶとともに中目黒の部屋へ戻る嵩。玄関先には、朝田家の4人が固い表情で立ち尽くしていた。何か悪い知らせなのか――不安が胸をよぎる2人に、待っていたのは意外な展開だった。彼らが用意していたのは、2人の結婚生活を祝う小さなサプライズだったのだ。何度もぶつかり、すれ違い、悩みながら選び取ってきたその不器用な足取りのすべてが、こうして誰かの笑顔につながっていると思うと、観ている側もじんわりとくる。

 新しい暮らしはまだ始まったばかり。迷いも不安も、きっとこれから何度でもやってくる。それでも、のぶと嵩には2人で築いた小さな土台が確かにある。その上に積み重ねていく日々が、未来を形づくっていくのだろう。たとえ雨漏りがある家でも、笑い合える誰かがいれば、それは温かい居場所になる。どうかこの先も、2人が歩む道に、ささやかな幸せが咲き続けていきますように。

■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐

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