中島歩が視聴者をざわつかせるワケ 『愛の、がっこう。』『あんぱん』での“振り幅”

俳優・中島歩を目にしない日はないような状況が続いている。朝ドラ『あんぱん』(NHK総合)に好演を刻み、惜しまれつつ退場したかと思えば、今度は木曜劇場『愛の、がっこう。』(フジテレビ系)でクセのある妙演を展開。タイミングが重なっただけに、彼の演技の振れ幅の大きさに驚いている方も多いのではないだろうか。この春には『ガンニバル』シーズン2(ディズニープラス)の配信がスタートし、こちらでは怪演を披露している。なぜこうも彼は愛されるのだろうか。
中島の出演最新作である『愛の、がっこう。』は、非常にマジメな性格の高校教師・小川愛実(木村文乃)がナンバーワンホストを目指すカヲル/鷹森大雅(ラウール)と出会い、やがてふたりが惹かれ合っていくさまを描くラブストーリーだ。この作品で中島は、愛実の交際相手の川原洋二を演じている。大手企業の執行役員を務めた父と専業主婦の母に大切に育てられ、一流大学を卒業。現在は大手銀行に勤めている。いわゆる“ハイスペック男子”といわれるような存在。穏やかで感じのいい青年である。

『あんぱん』で中島が演じた若松次郎は、ヒロイン・のぶ(今田美桜)がお見合いで出会い、やがて夫婦となる人物だった。一等機関士として働く彼もまた非常に穏やかな性格の持ち主で、カメラが相棒の好青年。中島のゆったりとしたセリフ回しから生まれる次郎の優しさに、いち視聴者に過ぎない私まで優しい気持ちになれたものである。のぶに対する彼の愛情には、一分の隙もなかった。病死したことにより『あんぱん』の世界からは退場してしまったが、“中島歩=若松次郎”の残り香を、いまでも作品のあちこちから感じ取ることができるだろう。

しかし、裏表のなかった次郎に対し、『愛の、がっこう。』の洋二には裏の顔がある。“穏やかで感じのいい青年”と先述したが、愛実の気持ちを尊重する誠実な男性像は、じつは表面的なもの。彼には愛人がいながら、自身の将来のためだけに愛実にアプローチしている。洋二の裏の顔はグロテスクで、軽薄な策士なのだ。

冷酷さや残虐さが目立った『ガンニバル』の後藤理の登場に続くかたちで『あんぱん』の次郎が私たちの前に現れたため、中島の演技の振れ幅の大きさに戸惑うオーディエンスも多かった。同じ人間が演じているとは思えないーーそう強く感じていた方も多いのではないだろうか。役のタイプも、演技のテイストもまったく違う。演技の引き出しの多さと演技者としての思い切りの良さを感じたものである。
けれども、次郎の退場後に洋二が現れた流れに対する驚きは、またかなり違うものだ。すでに記しているように、次郎も洋二も表向きは好青年。そのもっとも大きな違いは、裏の顔を持っているのかどうかだ。いや、愛実の前で見せることのない裏の顔こそ彼の素顔なのだと捉えるべきか。愛人の前での彼のほうが自然体で、確実にリラックスしているように思える。だとするならば、愛実に見せているのは彼が意識的に作り出した虚像であり、中島は『愛の、がっこう。』において“二重の演技”を展開していることになる。彼は洋二という青年を演じているが、この洋二もまた演技をしているからだ。

視聴者の中には怒り心頭の方が多いようだが、当然の反応だろう。しかし個人的には、これをサラリとやってのける中島の演技者としてのレベルの高さに、感動すらしてしまう。本作の構造としては、そのマジメさからホストをどこか敵視していた愛実が、カヲル/鷹森大雅の誠実さに気づいていくというもの。いっぽう、誠実だと思っていた洋二は誰がどう見てもクズである。カヲル/鷹森大雅と洋二はあらゆる属性が異なっていて、ともに男性だが対照的な存在だ。中島の巧みで自然体な“二重の演技”によって、本作のメインストーリーやテーマは際立っている。
井上由美子が完全オリジナルストーリーで描く、すれ違うことすらないはずの2人が出会い、惹かれ合うラブストーリー。高校教師・小川愛実が、文字の読み書きが苦手なホスト・カヲルに秘密の“個人授業”を続ける中で次第に距離を縮めていく。
■放送情報
木曜劇場『愛の、がっこう。』
フジテレビ系にて、毎週木曜22:00~22:54放送
出演:木村文乃、ラウール(Snow Man)、田中みな実、中島歩、坂口涼太郎、味方良介、野波麻帆、早坂美海、荒井啓志、別府由来、りょう、筒井真理子、酒向芳、沢村一樹
脚本:井上由美子
演出:西谷弘
プロデュース:栗原彩乃
音楽:菅野祐悟
制作著作:フジテレビ
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