『あんぱん』は嵩と手嶌の関係性をどう描く? やなせたかしと手塚治虫のエピソードを解説

逆に、ある程度史実に沿って描いていくのだとしたら、柳井と手嶌の本格的な絡みはアニメーション映画作りから始まることになるだろう。「或る日、電話が鳴った。『もしもし、やなせさん、手塚治虫です』『あ、どうも』『実はね、今度虫プロで長編アニメを作ることになったんですよ』」。そんな会話から始まって、「『それで、やなせさんにキャラクターデザインをお願いしたいんです。ひきうけていただけますか』」と『アンパンマンの遺書』に書かれているように、やなせは手塚が設立した虫プロダクションが作り1969年に公開された長編アニメーション映画『千夜一夜物語』に美術監督として関わっていく。
ここまでの間で関係が深まっていたということはない。同じ「漫画集団」に所属していて顔を合わせたり、いっしょに旅行したりしていた程度。だから、「何故ぼくに電話してきたのか。わけが解らない」と書いている。後日、やなせがプロデューサーに理由を尋ねたところ、虫プロは『鉄腕アトム』のイメージが強くスタッフも子供向けアニメのキャラクターに馴れてしまっていたことから、大人向けの『千夜一夜物語』は大人漫画の人に描いてもらおうと考え、やなせを選んだと教えられた。
結果は大成功。気を良くした手塚は、やなせに短編アニメーションを自由に作って良いと言い出した。そこで手がけた『やさしいライオン』は、毎日映画コンクールでアニメーション関係に贈られる大藤信郎賞を受賞し、歴史に刻まれている。
こうしたアニメを介してのやなせと手塚との交流が、ドラマでも描かれるとしたら柳井がまごつきながらキャラクターをデザインしたり背景美術を描いたりする側で、手嶌の超人的とも言える仕事ぶりが見られるかもしれない。数々の連載を抱える漫画家として活躍しつつ、アニメにもどっぷりと関わり不眠不休で働く手嶌から柳井は何を感じ取るのか。それが後の柳井の仕事にどう影響していくのか。ドラマのその後にも関わってくる交流が描かれるとするなら見逃す手はない。

『あんぱん』がドラマである以上、史実よりも劇的なストーリーを繰り出して、柳井と手嶌を描いていくかもしれない。それはそれで同時代を生きたクリエイターの関係を通し、努力家としての柳井と天才としての手嶌のそれぞれの漫画への思いを教えてくれるものになるだろう。展開が気になるところだ。
『やさしいライオン』の後も手塚との交流は続いていて、やなせが作った「漫画家の絵本の会」に手塚も同人として参加し、サイン会にも顔を出したという。そうした充実した活動の中から、絵本としての『アンパンマン』が生まれて来たとしたら、手塚の存在も何かしら影響を与えていたかもしれない。だからこそ、手塚の存命中にTVアニメの大成功を見てほしかっただろう。
1990年にやなせが日本漫画家協会賞の大賞を『アンパンマン』で受賞した時、文部大臣賞が故人となった手塚に贈られた。「ぼくには及びもつかない巨星といっしょに受賞したのも望外だった」と『アンパンマンの遺書』に書いて喜ぶやなせの姿が、ドラマでどのように描かれるのかが楽しみでならない。
手塚がモデルの手嶌を眞栄田が演じて、果たして“手塚らしさ”が出るかがやはり気になるところ。2018年のドラマ『ヒーローを作った男 石ノ森章太郎物語』(日本テレビ系)でバカリズムが手塚を演じたことがあるが、それ以前は『まんが道』(NHK総合)で江守徹、『永遠のアトム・手塚治虫物語』(テレビ東京系)で奥田瑛二、『神様のベレー帽~手塚治虫のブラック・ジャック創作秘話~』(フジテレビ系)で草彅剛が演じている。写真や映像で残る手塚のイメージから離れた配役だが、特に異論が出たという話はない。ようは演じ方次第といったことだろう。
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK






















