『大追跡』SSBCは“科捜研”や“特命捜査対策室”とどう違う? 作品を超えた連携にも期待

『大追跡』SSBCは“科捜研”とどう違う?

ドラマが現実になる「CSI効果」の凄さ

 アメリカの大ヒットドラマシリーズ『CSI:科学捜査班』(2000年~)に登場する「CSI(Crime Scene Investigation)」も科学捜査を扱う部署として無視できない存在だ。英語直訳だと「犯罪現場捜査」かもしれないが、「科学捜査班」と素晴らしい翻訳の印象深いタイトルになっている。当初、CSIはドラマ上で架空の組織として描かれたが、絶大な人気ゆえ鑑識への就職希望者が現れるなどして、警察署が実際に科学捜査を行うセクションを「CSI」と改名したり、命名したりする動きが生まれたという。今日では実際に科学捜査を行う部署を「CSI」と呼ぶアメリカの警察組織も多い(※2)(※3)(※4)(※5)。実際のところ、ドラマ内のCSIの仕事はどちらかといえば科捜研に近いようだが、現場に出て捜査官を支援するなどSSBCとも類似した動きも多く、「SSBC+科捜研」といった存在感かもしれない。

 また、『CSI:科学捜査班』の大ヒットで科学捜査への関心が高まり、陪審員や法曹関係者等に大きな影響を与えたともいわれている。具体的には、陪審員はドラマの影響で科学的証拠に対して過度な期待を抱くようになり、DNA鑑定や指紋鑑定などの物的証拠がない場合、有罪判決を躊躇する傾向が生まれたという(※6)。これらの現象は「CSI効果(CSI effect)」と総称されており、2004年ごろから議論を呼んでいる。実証研究では、CSI効果は実際には大きく確認されていないとされ(※7)、むしろメディアや一部の検察関係者の思い込みにすぎないとの指摘もされているが、CSI効果は「存在する」とする意見もあり議論は続いている。一方、CSI効果は科学捜査技術の向上や法科学教育の充実に繋がったという指摘もある。CSI効果で視聴者が科学捜査や犯罪の解決に関心を寄せるようになったのは明確なメリットだといってよいだろう。

 科学捜査を行うCSIが人気を集める一方、FBIには「行動分析課=BAU(Behavioral Analysis Unit)」という組織が実在する(※8)。BAUはドラマ『クリミナル・マインド FBI行動分析課』(2005年〜)などでよく知られている。BAUは最先端の心理学研究と経験を活かして犯罪者の心理や行動パターンを分析するプロファイリングを専門とする組織。しかし、『クリミナル・マインド』に登場するBAUはドラマ演出を多分に含むユニットのようで、この点では『大追跡』のSSBC強行犯係と立ち位置が微妙に似ている。実際のBAUはデスクワーク中心との報道もある。

 世界各国では、それぞれの制度や犯罪情勢に応じた科学捜査・情報分析組織が発達している。ヨーロッパでは、SSBCの上位機関的な存在感として国境を越えた犯罪捜査支援組織「ENFSI(European Network of Forensic Science Institutes)」がある。39カ国以上が参加しており、テロや組織犯罪、人身取引などに対し、加盟国内外で協力しながら科学的証拠の質向上に取り組んでいる(※9)。

 以前から世界中で科学捜査への取り組みは行われていたが、世界中に広まったCSI効果もあり、各国で科学捜査組織の進歩は加速しているという。これらの組織は名称や所属は異なるが、いずれも「科学的な証拠分析」や「情報分析」を専門とし、現代犯罪の捜査を進展させる重要な役割を果たしている。

「大追跡効果」は発生するか? 未来へ期待

 『大追跡』によって日本でも科学捜査への関心が高まり、視聴者の科学捜査リテラシーが向上するかもしれない。そうなれば、将来この分野を志す若者が増え、「大追跡効果」と呼ばれる可能性もある。現実の科学捜査は華やかさばかりではないが、地道な分析と最新技術を駆使して、複雑化する犯罪に粘り強く立ち向かっていく姿を『大追跡』でも現実でも期待したい。

相葉雅紀が『大追跡』のキーマンに テレ朝伝統“刑事もの枠”をアップデートできるか

大森南朋、相葉雅紀、松下奈緒がトリプル主演を務めるテレビ朝日系ドラマ『大追跡~警視庁SSBC強行犯係~』が、7月9日からスタート…

参照
※1. https://dot.asahi.com/articles/-/117371
※2. https://doverpolice.org/crime-scene-investigations-c-s-i/
※3. https://www.iredellsheriff.com/584/Crime-Scene-Investigations-Unit-CSI
※4. https://www.fremontpolice.gov/about-us/administrative-operations-division/crime-scene-investigation-csi
※5. https://www.sanfranciscopolice.org/your-sfpd/forensic-services-division/crime-scene-investigation-unit
※6. https://www.cbc.ca/news/canada/csi-effect-adds-drama-to-real-life-crime-solving-1.625222
※7. https://www.wtamu.edu/webres/File/Academics/College%20of%20Education%20and%20Social%20Sciences/Department%20of%20Political%20Science%20and%20Criminal%20Justice/PBJ/2018/5n2/5n2_01EPH.pdf
※8. https://www.fbi.gov/how-we-investigate/behavioral-analysis
※9. https://enfsi.eu/

『大追跡~警視庁SSBC強行犯係~』の画像

水9ドラマ枠『大追跡~警視庁SSBC強行犯係~』

2009年に警視庁に新設された分析・追跡捜査の専門部隊「SSBC=捜査支援分析センター(Sousa Sien Bunseki Center)」を舞台に、そこを取り巻く人間模様を描く。

■放送情報
『大追跡~警視庁SSBC強行犯係~』
テレビ朝日系にて、毎週水曜21:00~放送
出演:大森南朋、相葉雅紀、松下奈緒、伊藤淳史、髙木雄也、足立梨花、丸山礼、野村康太、佐藤浩市、遠藤憲一、光石研ほか
脚本:福田靖
監督:田村直己、豊島圭介、小松隆志
ゼネラルプロデューサー:服部宣之(テレビ朝日)
チーフプロデューサー:黒田徹也
プロデューサー:藤崎絵三(テレビ朝日)、目黒正之(東映)
音楽:沢田完
制作:テレビ朝日、東映
©テレビ朝日・東映
公式サイト:https://www.tv-asahi.co.jp/daitsuiseki/
公式X(旧Twitter):https://x.com/daitsuiseki2507
公式Instagram:https://www.instagram.com/daitsuiseki2507/

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる