『火垂るの墓』はなぜ海外で絶賛されるのか? 終戦80年の節目に再評価したい名作の真価

『火垂るの墓』はなぜ海外で絶賛されるのか?

 高畑勲監督の『火垂るの墓』が、8月15日に金曜ロードショーで放送される。

 原作は、野坂昭如の同名小説。太平洋戦争末期、空襲で家と母親を失った14歳の兄・清太と4歳の妹・節子が、食料不足と病魔に襲われ、過酷な運命をたどっていく物語。高畑監督自身は「反戦映画ではない」と明言しているものの、戦争の残酷さをヴィヴィッドに描いた作品であることは間違いない。終戦80年の節目となる終戦記念日に放送される意義は非常に大きいといえる。

 7月15日からは、スタジオジブリ作品としては初めてとなる日本国内配信もNetflixでスタートした。2024年9月16日に世界190以上の国と地域で配信が開始された際には、「なぜ日本だけ配信されないのか」という議論がSNSで巻き起こっていたが、今回満を持しての開始となる。『火垂るの墓』の著作権を所有しているのがスタジオジブリではなく、原作小説を出版した新潮社だったことから実現できたケースといえる。

 なぜ、ジブリ作品はこれまで国内配信されてこなかったのか。もちろん、ブランド価値を高めるIP(知的財産)戦略であることは間違いないが、そのほかにもいくつか要因は考えられる。配信開始によって、DVDやBlu-rayの売上が減少してしまうこと。Netflixなど他のプラットフォームが、日本テレビのオンライン動画配信サービスHuluと競合してしまうこと(日本テレビは、2023年にスタジオジブリの株式42.3%を取得して子会社化している)。そして、金曜ロードショーで一定の視聴率が見込めるジブリ作品が、配信によってその数字が落ちてしまうこと。

 だが、『火垂るの墓』に限っていえば、その視聴率は決して芳しいものではなかった。1989年8月11日に初めてテレビ放送されたときは20.9%の視聴率をマークしたものの、直近は2013年11月22日:9.5%、2015年08月14日:9.4%、2018年04月13日:6.7%と1ケタ台。公開時に同時上映されていた『となりのトトロ』が、2020年08月14日:16.5%、2022年08月19日:13.7%、2024年08月23日:13.4%と、安定して2ケタを記録しているのと対照的だ。視聴率の低さが、国内配信に踏み切った遠因とも考えられる。

 だが、どう考えても『火垂るの墓』は観られるべき作品であり、語り継がれるべき作品だ。いわゆるバッドエンド映画/鬱エンド映画として知られているだけに、敬遠している方も多いだろうが、一見の価値がある映画であることは、自信をもって断言させていただく。

 Netflixでの国内配信もそうだが、終戦80年という節目の年に放送される今回の金曜ロードショーは、多くの人々の目に触れる大きなきっかけとなることだろう。この映画は、太平洋戦争の直接的な被害にとどまらず、戦争がもたらす社会の歪みや、人間としての尊厳がいかに失われるかまでも鮮烈に描いている。現代を生きる私たちにとって、平和の真の意味を深く考える貴重な機会となるはずだ。

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