『火垂るの墓』はなぜ海外で絶賛されるのか? 終戦80年の節目に再評価したい名作の真価

スタジオジブリ作品は海外でも評価が高いが、特に高畑作品は批評家筋から際立った評価を受けている。海外の映画レビューサイトRotten Tomatoesのトマトメーター(プロの批評家による評価)をチェックしてみると、『火垂るの墓』、『おもひでぽろぽろ』、『かぐや姫の物語』は何と全て100%(※1)。宮﨑駿作品も、『魔女の宅急便』が98%、『千と千尋の神隠し』が96%、『君たちはどう生きるか』が96%と高い数字を記録しているが、さすがに100%はマークしていない(※2)。
またRotten Tomatoesは、独自の集計方法で日本アニメーション映画のベスト100を発表しているが、これまた驚くべきことに、ベスト3が高畑作品で独占されている(※3)。
1位『かぐや姫の物語』
2位『おもひでぽろぽろ』
3位『火垂るの墓』
4位『THE FIRST SLAM DUNK』
5位『君の名は。』
6位『劇場版 呪術廻戦 0』
7位『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』
8位『魔女の宅急便』
9位『この世界の片隅に』
10位『千と千尋の神隠し』
いやもう、他を圧倒する高評価ぶり。『火垂るの墓』に対する評論家のコメントも熱を帯びた絶賛評ばかりだ。
「史上最高のアニメーション映画だ。実写映画も含めて、映画で語られたなかで最も心を揺さぶり、心を痛めさせる、悲劇的な物語だ。ムファサの死や、母親を亡くしたバンビがあまりにも痛々しくて見ていられないと思ったなら、あなたは本当の悲しみを感じたことがないのだ」(※4)
「高畑監督の、正義の名の下に朽ち果てた無邪気さを描いたこの作品は、クリント・イーストウッド監督の『父親たちの旗』や『硫黄島からの手紙』のような近年の大作に次ぐものであり、アメリカの戦争が決して清廉潔白でも真の正義でもないことを痛感させる」(※5)
アメリカの著名な映画評論家ロジャー・イーバートは、「『トイ・ストーリー』や『バンビ』のような名作には、涙を流す観客もいる。しかし、これらの映画は安全な範囲内に存在し、涙を誘うことはあっても悲しみを誘うことはない」(※6)と語っている。『火垂るの墓』という作品の本質を見事に言い表した論評だ。

今回の地上波放送は、2018年4月13日の高畑監督追悼以来7年ぶり。『風の谷のナウシカ』、『天空の城ラピュタ』、『となりのトトロ』といった作品がほぼ2年おきに放送されていることを考えると、だいぶ間が空いてしまった。前述したように、視聴率が振るわなかったことも一因だろうし、戦争の悲惨さを真正面から描いた作品に(しかも金曜夜という時間帯に)、視聴者が心理的なハードルを感じている可能性もあるだろう。
それでも日本テレビが、「まだ作品を観ていないユーザーに作品の素晴らしさを届けたい」という英断を下したことに、筆者は万雷の拍手を送りたいと思う。優れた作品であることは、Rotten Tomatoesのレビューでも証明済み。戦争体験者が年々少なくなり、戦争の記憶が風化していく今だからこそ、『火垂るの墓』にじっくりと向き合いたい。
参照
※1.https://www.rottentomatoes.com/celebrity/isao_takahata
※2.https://www.rottentomatoes.com/celebrity/hayao_miyazaki
※3.https://editorial.rottentomatoes.com/guide/best-anime-movies/
※4.https://cinephilefix.com/2014/01/03/film-analysis-grave-of-the-fireflies/
※5.https://www.slantmagazine.com/film/grave-of-the-fireflies/
■配信情報
『火垂るの墓』
Netflixにて配信中
声の出演:辰巳努、白石綾乃、志乃原良子、山口朱美
監督・脚本:高畑勲
原作:野坂昭如
製作:佐藤亮一、鈴木敏夫
製作総指揮:佐藤隆信、原徹
©野坂昭如/新潮社, 1988





















