『あんぱん』『べらぼう』『舟を編む』 NHKに急増中の“出版もの”ドラマに惹かれる理由

現代性を帯びたドラマ版『舟を編む』

そうした「本作り」の素晴らしさを改めて感じさせてくれるのが、『舟を編む』だ。現在放送中のNHKドラマ版は、2013年に公開された映画版とは「主人公」と「時代設定」が大きく異なる。映画版『舟を編む』は、少数精鋭で猫の手も借りたい辞書編集部に、ちょっと風変わりな青年・馬締(松田龍平)が加わる。つまり、生粋の言葉オタクである馬締が、辞書作りという“天職”に出会う物語だ。
一方、現在放送中のNHKドラマ版では、担当のファッション誌が廃刊になったみどり(池田エライザ)が、馬締(野田洋次郎)率いる辞書編集部への異動を命じられる。同じ作業を延々と繰り返す馬締たちに「どっかムダな工程があったりするんじゃ……」と漏らす彼女は、現代の若者を象徴するような主人公だ。言葉に無頓着だったみどりだが、辞書を作る過程の中で言葉の意味を見つめ直し、奥深い辞書作りの世界へのめり込んでゆく。
『べらぼう』でも、一冊の本を作るには多くの人の手が加わり、流通させるために様々な調整が重ねられているが、『舟を編む』はまさに現代の出版業界の実情をまざまざと描いている。特に辞書作りには何年もの歳月がかかり、みどりの異動時点で『大渡海』はすでに13年もの時間を費やしている一大プロジェクトだ。100万枚を超える用例採集カード、何度も何度も確認を重ねる原稿、各ページの挿絵から紙の質感に至るまで、馬締たちは一切の妥協を許さない。コスパやタイパを謳う時代からすると、気が遠くなるほど地道な作業の連続だが、彼らのプロフェッショナルな姿勢にはどこかロマンを感じずにはいられない。
しかし『舟を編む』というドラマは、ロマンだけでは終わらない。辞書作りが進んでいく中、「この時代に紙の辞書は売れるのか」という根本的な問題に、みどりたちは否応なく向き合うことになる。『あんぱん』でも、のぶが新聞に広告を出してくれるスポンサー探しに奔走していたが、資本なしに本や新聞は作れない。どれだけ文化的・社会的な意義があろうとも、売れなければビジネスとして成立しない。この展開は、映画版『舟を編む』でも重要なエピソードになっているが、映画が公開された2013年よりも、いまはさらにデジタル化やペーパーレス文化が進み、紙の本への問いかけは、より重くのしかかる。令和の出版業界で、みどりたち辞書編集部がどのような決断を下すかも、ドラマ版『舟を編む』で注目してほしい。
SNSが普及し、消費サイクルがどんどん加速する時代。流行は一瞬で駆け抜け、情報は次々と上書きされるいまだからこそ、効率や即効性では測れない本への営みは、燦然と輝く。新聞・出版業界ドラマは、その揺るぎない価値を力強く映し出している。






















