『教皇選挙』の静かな快進撃 ヒットの理由は“伝統と現代性の融合”と“格調高さ”にあり

 第97回アカデミー賞作品賞にもノミネートされ、脚色賞を受賞した映画『教皇選挙』が意外なヒットとなっている。初日4日間で満席の上映が128回とアベレージの高い稼働を見せ、107館と公開規模は決して大きくないが、初週の興行収入ランク7位に食い込んだ。洋画のドラマ作品は近年、集客に苦戦することが多かったこともあり、この結果は業界関係者も映画ファンも含めてざわつかせた。

 興行収入はすでに3億円を突破しており、配給会社によれば5億円も視野に入っているという。(※1)映画のヒットは水ものだが、本作の成功を考えるのは、今後の映画産業的にも重要なことかもしれない。作品の質とその質を伝えるプロモーションの両面でこのヒット要因を検討してみたい。

初日4日間の時点で幅広い世代を集客

 まずはファクトを確認する。文化通信によると、初日4日間の『教皇選挙』動員の男女比は4対6で女性が多く、20代からシニア層まで幅広い世代の観客を集めたという。2人組のペアが目立ったようで、週末3日間の主要都市の劇場24館だけで96回もの満席を出したという。また、平日でも動員の落ち込みが少ないという結果も出ているという。(※2)

 上映開始後の口コミの強さも目立つ。X(旧Twitter)には絶賛の感想があふれ、「Filmarks」などでも高評価が目立っている。また、新聞での宣伝も積極的で朝日新聞の夕刊の映画評で最も大きな枠で扱われ、情報番組でも『あさイチ』(NHK総合)に『王様のブランチ』(TBS系)、『めざましテレビ』(フジテレビ系)などで言及されている。当初はシニア層が中心と見込まれていたようだが、ふたを開けてみると広い世代に訴求しており、ヒットの噂と口コミを見て、さらに広がりを見せているという状況だ。

モダンと古典的世界の絶妙なブレンド

 本作は、キリスト教カトリックの総本山バチカンにおけるローマ教皇を決める選挙「コンクラーベ」を描いた作品だ。ローマ教皇の急死によって、急遽新たな教皇を選出することになり、ローレンス枢機卿(レイフ・ファインズ)は新教皇を決める教皇選挙「コンクラーベ」を執り仕切ることになる。世界中から候補者がシスティーナ礼拝堂に集められ、超極秘の投票が始まる。世間から一切の情報をシャットアウトした中で行われる選挙と、その外で起こるテロなどの事件、そしてカトリック教会の保守と革新の対立や陰謀が描かれる。

 まず、画面が全編にわたり緊張感ある構成で占められていて隙がない。ふとしたインサートショットにも極上の格調高さが漂う。荘厳な雰囲気の礼拝堂で緊迫した駆け引きが行われ、そこで人のエゴや権力欲、信仰、古い慣習と新たな価値観がぶつかり合う。神聖さと醜い俗的な感情とが混交しながら展開する、見ごたえある作品だ。

 画面作りもユニークだ。荘厳な宗教服に身を包んだ男性たちが電子タバコを吸っていたり、スマートフォンをいじったりしている。古典的な宗教画と現代がまじりあったような不思議な光景だが、礼拝堂の中というのは遠い世界の出来事のように思えるところ、彼らも現代を生きる人間であり、我々と接点のある存在なのだと思わせる。

 近年の映画作品では珍しく「格調高さ」を感じさせる内容で、人種的多様性やジェンダーの話題など近年の問題意識も含めていくことで、古臭くならず、逆に伝統的な荘厳さも新鮮に感じられる作品であった。エドワード・ベルガー監督は公式パンフレットのインタビューで「モダンな要素と古典的な世界のハイコントラストを強く出したいと思いました」(P14)と語っているがその通りに古さと新しさを兼ねた作品だったことが、幅広い世代の興味を惹いたのだと思われる。

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