朝ドラを彩る「子役」の存在 『あんぱん』で永瀬ゆずなと木村優来が見つめる“死と再生”

 『あんぱん』で、今田美桜が演じる主人公・朝田のぶの少女時代を演じるのは永瀬ゆずなだ。永瀬は『監察医 朝顔』(フジテレビ系)に、上野樹里演じる主人公の娘つぐみ役で出演していた。いつの間にこんなに大きくと感じるのは大人の勝手な感想で、しっかり出演作を重ねて臨んだ今作で、永瀬は高知生まれの“はちきん”な少女をはつらつと演じている。後に伴侶となる嵩(北村匠海)の幼少期を演じるのは木村優来だ。東京から来た転校生の嵩は内気でおとなしい性格。のぶはいじめっ子から嵩を守ったことをきっかけに嵩と仲良くなる。

 この年代は、同い年でも女子のほうが背が伸びるのが早かったり、足が速かったりすることはよくある。とりたてて珍しくはないが、子ども同士の関係は、社会に出て押し付けられる規範や性差の意識から解き放たれており、のぶと嵩の対等な関係に後年のパートナーシップの萌芽を見る思いがする。

 『あんぱん』で放送初週にして漂っていたのが濃厚な死の気配だ。のぶと嵩には実父を亡くすという共通点がある。嵩の父・清(二宮和也)は嵩が幼い頃に病死。のぶの父である結太郎(加瀬亮)は出張からの帰路に急死する。結太郎の訃報を聞いて泣けなかったのぶは、汽車が駅に入ってきたのを目にすると、走り出して父の姿を探す。後日、嵩は結太郎とのぶのスケッチを差し出し、それを見たのぶの眼から涙がこぼれた。

 ドラマは、草吉(阿部サダヲ)が焼いたあんぱんを朝田家の面々が味わって食べることで、結太郎の死を昇華する場面が続く。父の死という喪失の場面で名指される「あんぱん」は死と再生の象徴であり、『アンパンマン』シリーズの有名な台詞「ぼくの顔をお食べ」に通じるものがある。とりわけ、それを見つめるのが少年少女であることが重要だ。

 少年少女の眼から見る世界は、センスオブワンダーで満ちている。幼くして肉親の死を経験し、味覚を通して生を全身で受け止めること。『アンパンマン』の原点エピソードとして、これ以上のものはない。のぶとの出会いを幼少期に改変してまで描く必要があり、感受性に優れた永瀬と木村の2人は外せない人選だったと思う。

 『あんぱん』に関しては、後に結ばれる2人が幼少期に出会っている設定が、今後どのように生かされるかに注目したい。主人公夫婦の二人三脚を描く朝ドラには『マッサン』(2014年度後期)や『エール』(2020年度前期)があるが、面識を得たのは青年期以降だ。『あんぱん』はのぶと嵩の相互理解、絆の深さにフォーカスすると思われる。その兆候がすでに子役2人のシーンにあると考えることも、あながち間違いとは言いきれないだろう。

■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、加瀬亮、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、細田佳央太、高橋文哉、中沢元紀、大森元貴、志田彩良、二宮和也、瀧内公美、山寺宏一、戸田菜穂、浅田美代子、吉田鋼太郎、竹野内豊、阿部サダヲ、妻夫木聡、松嶋菜々子
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK

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