宇野維正の映画興行分析
初登場4位『ミッキー17』 メジャースタジオで映画を作るリスクについて
3月第5週の動員ランキングは、『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』が4週連続1位。週末3日間の動員は35万8000人、興収は4億3500万円。公開4週目にして興収が前週比125%と大幅アップしたのは、子供たちが春休み真っ最中ということもあるが、シリーズ全体における今作の評判の良さも後押ししてのことだろう。公開から24日間の動員は247万4400人、興収は29億8700万円。ここまでウィークデイはデッドヒートを繰り広げてきた『ウィキッド ふたりの魔女』に差をつけて、独走状態に入ったかたちだ。
その『ウィキッド ふたりの魔女』は週末3日間で動員15万1000人、興収2億4800万円。公開から24日間の動員は142万9500人、興収22億7000万円。こちらも観客満足度が高く、実写ハリウッド映画の苦戦が常態化している中、2部作の1作目であることをふまえても十分以上の健闘と言えるだろう。続編の『Wicked: For Good(原題)』の北米公開は今年11月。日本でも1作目の熱が冷めないうちに劇場公開した方が得策だと思うのだが……。
新作で最上位となる4位につけたのは、ポン・ジュノ監督、ロバート・パティンソン主演の『ミッキー17』。オープニング3日間の動員は7万6000人、興収は1億2100万円。ポン・ジュノ監督にとっては『パラサイト 半地下の家族』以来6年ぶりの新作(日本公開時期として5年3ヶ月ぶり)となったわけだが、韓国で製作された『パラサイト 半地下の家族』とハリウッドのメジャースタジオ(ワーナー・ブラザース)が製作した本作とでは、予算規模も配給体制も大きく異なる。
ちなみに『パラサイト 半地下の家族』は『ミッキー17』の約3分の1となる全国131スクリーンで公開されて、オープニング成績では『ミッキー17』の182%となる2億1000万円を稼いだわけだが、この成績はアカデミー賞で作品賞を受賞する以前のもの。公開を追うごとに動員もスクリーン数も増え続け、アカデミー賞での作品賞受賞も大きな誘因力となり、公開6週目に初めて動員ランキング1位になると、そのまま3週連続1位。さらに伸びるかと思っていたところでコロナ禍に突入して、最終興収は47.4億円で頭打ちになるという、あらゆる意味で異例尽くしの興行だった。
そんな異例尽くしの『パラサイト 半地下の家族』の興行と『ミッキー17』の興行を比べることにはあまり意味がないかもしれないが、海外での興行と比べても一つだけ言えるのは、日本の興行においては、もはやハリウッドのメジャースタジオ作品であることのアドバンテージがほとんど見られないということだ。同じく『ミッキー17』の興行が苦戦している北米では、公開4週後の4月8日からデジタルリリースされることがアナウンスされると、映画界から作品への敬意の欠如や計画性のなさ(そもそも公開自体も当初の予定から約1年延期されていた)に対して反発の声が上がった。作品の評価については割れているものの、大きな資本と映画を作ることのメリットとデメリットについて、いろいろと考えさせられる作品となったことは間違いない。
■公開情報
『ミッキー17』
全国公開中
出演:ロバート・パティンソン、ナオミ・アッキー、スティーヴン・ユァン、トニ・コレット、マーク・ラファロ
監督・脚本:ポン・ジュノ
配給:ワーナー・ブラザース映画
2025年/アメリカ/G
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公式サイト:mickey17.jp
『今週の映画ランキング』(興行通信社):https://www.kogyotsushin.com/archives/weekend/