『あんぱん』旅立つ登美子は何を思うのか? 松嶋菜々子の演技が光る柳井家の“閉塞感”

 登美子は、嵩の髪の毛を切りながら、高知の町で用事ができたと告げる。それは、嵩に一抹の不安を抱かせた。その不安を断ち切るように、清に似ているという耳を撫でる登美子。「優しくて強くて父さんみたいに素敵な人になるわよ」という言葉に、微笑む嵩。とても幸せなシーンなのに、嫌な予感がした。

 その予感は的中。登美子は再婚するという置き手紙をおいて、柳井の家を出ていってしまう。聡い嵩は学校を休んで、家を出ていく登美子に声をかけるが、「すぐ迎えにくる」という登美子の言葉を信じ、登美子を見送ってしまった。

 出来事だけを考えると、自分の幸せのために嘘を吐いて息子を捨てた悪女のように見える。しかし登美子の表情には、嵩と千尋を想う気持ちも表れており、息子の幸せのために共に生きることを諦めた母親のようにも見える。登美子はどのような正義の元生きているのか分からないまま。この絶妙なさじ加減の表情は、朝ドラ3度目の出演となる松嶋だからなせるわざだろう。

 赤い彼岸花が揺れる道を、青い着物を着た登美子が歩いていく光景が、嵩の脳裏に焼きつく。数十年後には作中で第二次世界大戦が始まってしまう。これが嵩にとって母の最期の姿になってしまうのだろうか。

 御免与町は小さな町だ。登美子の噂はすぐに広まり、のぶの耳にも入る。のぶは嵩を元気付けようと、柳井家へ。のぶは嵩の事情を知らないふりをして、不器用に嵩を元気づける。「嵩はうちが守っちゃる」。のぶから出たヒーローのような言葉を受けて、嵩は“朝田のぶさん”から“のぶちゃん”に呼び方を変更。母との別れが、奇しくものぶと嵩の距離を縮めることになった。

 登美子を見送るシーンや寛の妻・千代子(戸田菜穂)が手を添えるシーンなど、嵩の小さな背中に抱えるものの大きさを思わせる演出が多かった第3話。そんな嵩を力強く支えようとするのぶの健気さも見え、2人が今後どのように関わっていくことになるのかを予感させる回だった。

■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、加瀬亮、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、細田佳央太、高橋文哉、中沢元紀、志田彩良、二宮和也、瀧内公美、山寺宏一、戸田菜穂、浅田美代子、吉田鋼太郎、竹野内豊、阿部サダヲ、松嶋菜々子
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK

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