『おむすび』が描いた“誰もが主人公”のギャルマインド 朝ドラヒロインの役割変えた意欲作

 そして次の第21週「米田家の呪い」では、聖人が老いた父・永吉(松平健)との関係を見つめ直す姿が描かれ、老いた父と中年男性の息子の関係が朝ドラで描かれたことに再度驚かされた。

 『おむすび』には、地味だが新しいと感じる見せ方が多数登場する。聖人の描き方はその筆頭で、家父長制を象徴する厳しい父親像とも過度に理想化された戦後の優しいお父さん像とも違う、基本的に優しいが時に酷いことを言ってしまう弱さを抱えた等身大の父親像を見事な解像度で描ききったことに、新しさを感じた。

 また、第24週では、妻の愛子が福岡の糸島で暮らす義母の佳代(宮崎美子)を心配し、聖人の故郷でもある糸島に帰ろうと決意する姿が描かれた。愛子は聖人にいっしょに帰りたいと相談し、悩んだ末に聖人は「ヘアサロンヨネダ」を結の夫・翔也に託し、糸島に帰る。

 最終的に米田家全員の物語となった『おむすび』だが、その結果「老い」というテーマを聖人と愛子を通して描くことに成功している。

 一人の女性の人生を描くことに力を注いできた朝ドラだが、『おむすび』はヒロインの重荷を他の登場人物に分散させることで、他の作品では脇役とされている存在を、自分の人生を生きている主人公的存在へと昇華させた。この「誰もが主人公である」という姿勢こそが、本作が描いてきたギャルマインドなのかもしれない。

■放送情報
連続テレビ小説『おむすび』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:橋本環奈、佐野勇斗、仲里依紗、北村有起哉、麻生久美子、新津ちせ、大島美優
語り:リリー・フランキー
主題歌:B'z「イルミネーション」
脚本:根本ノンジ
制作統括:宇佐川隆史、真鍋斎
プロデューサー:管原浩
写真提供=NHK

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